日本展示学会の「展示論講座」を受講しました(1)
日本展示学会の「展示論講座」に参加してきました。会場は東京国立博物館の黒田記念館。参加者は、お話できた中では北は秋田県から南は宮崎県まで。博物館・美術館の学芸員だけでなく、水族館の学芸員や図書館司書も参加されていました。
講義中に取っていたメモをまとめます。
講義1■高橋貴(展示学会会長/愛知大学)ヨーロッパ・ミュージアム展示論
まずは展示学会会長による、ヨーロッパでの展示の実例紹介。思わず目を背けたくなるような負の遺産(ナチス、奴隷、偏見など)も、ヨーロッパでは展示さているとか。ただ時系列順だとか、地域順だとかだけで並べてもつまらない。展示には「物語」が必要。ベルリンのユダヤ・ミュージアムに並ぶのは、食器やミシン、手紙など、あたりまえの日常道具。でも、その展示に隠されているのは、迫害された家族の悲惨な物語。
ドイツの日常文化博物館で取り入れられている展示方法は「タイムホッピング」。よく見る郷土資料館のように、ただ過去の時代の物を並べて見せるのではなく、現代にある物と並べてその共通点を比べて見せる。外見が似ているもの。目的は同じだけど大きく違うもの。
ヨーロッパの展示は、基本的には撮影OKなんだそうだ。キャプションをメモするために、一枚一枚写真を撮る。そんな東洋人を、首を傾げて眺めるその国の鑑賞者の姿が目に浮かんだ。
講義2■松本伸之(東京国立博物館/副館長)展覧会をつくる―国立博物館における企画展・特別展の企画等について―
見る側の視点
展覧会のテーマをつくるとき、これまでは学芸員個人やグループの考えで、順番にテーマを取り上げていく傾向だった。しかし、最近は一般の人たちもネットを通して発言をするようになっている。そうなると、運営者側が勝手に企画しても批判をうけることがある。そうなると大事なのは、以下の様なこと。
- 公共性をもっているか
- 学術性が保証されているか
- 訴求力があるか
- 今やるべきか、いつやるべきか(時宜性)
- 話題性があるか 世の中の関心に媚びるのではなく、どのくらい反響が出るか
- 地域性があるか
- 実現性があるか
入場者数だけでは評価できないが、やはり何人が訪れたかということは、その博物館、美術館の存在意義を揺るがすくらい大事なこと。観覧者層を想定し、目的や意義を明確化する必要がある。
「見せる側」としてだけでなく、「見る側」の視点に断つのも重要。どのくらいの時間で展示を見るのか、どこに休憩ポイントを設けるべきか。
企画者の「見せたい順」で悩むだけでなく、見る側のペースも考えること。展示で考えるべきは「見せたい」ではなく、見る側の導線。見る側の視点に立つことが何より大事。
ブログやtwitterから常に意見を拾うこと。会期中でも、キャプションなどはどんどん更新していくべし。メッセージ性だけが強くてもだめ。たとえば、いくら古文書を見て欲しいといっても、大量に並べたら見る人が疲れてしまう。それから、見るだけで終わり、の展覧会にはしないこと。見た人のその後に繋げることを考える。
公報をどうする?
輸送、保険、ディスプレイ、印刷、展示・撤収、警備、光熱水料……。展示には何かとお金がかかる。しかも、都内だけでも同じ期間に無数の展覧会が開かれている。NHKは自分たちが関わる展覧会しかクローズアップしない。企画段階から公報のことを考えておくこと。「お金が無いから公報はできない」と考えてしまう人が多いが、協賛や共催を得る努力をすべし。他との差別化をはかるべし。そして、タイトルが全ての決め手である。
(続きます)