「ミュージアムITセミナー 2017 in 東京」に行ってきました。(前編)
筑波大学図書館情報メディア系が主催する「ミュージアムITセミナー 2017 in 東京」に行ってきた。会場となる筑波大学東京キャンパスは、株式会社図書館流通センター(TRC)本社のすぐそばだった。
ミュージアムITセミナー 2017 in 東京
2017年1月30日(月)@筑波大学東京キャンパス文京校舎 121講義室
ミュージアムにおける映像活用(筑波大学 図書館情報メディア系 教授 西岡貞一)
西岡先生は「映像とは縁のない研究者が映像をつくるにはどうしたらいいか」を研究しているのだそうだ。博物館の展示に使用する映像は、プロに作成を依頼すれば50~100万円はかかるが、自分で作ってしまえばコストは削減できる。発表スライドをPowerPointで誰もが気軽に作れるようになったが、それと同じように、自分で気軽に映像がつくれる時代がもうすぐやってくるだろうと西岡先生は言う。
少し前までは、映像をつくるための機材は高値で、準備するのは大変だった。でも、今はスマートフォンさえあれば、撮影も編集も無料のアプリでできてしまう。動画を加工して共有できるアプリも流行っていて、今や自作映像は「ホビー(遊び)」として定着しつつある。これをもう一歩進めて、「業務(仕事)」に役立てることもできるはずだ。
第三の映像
第三の映像とは……?
- 自作が可能。
- プロに頼むと、意図と違ったものになってしまうこともあるけれど、自分でつくればそんな誤解もない。
- 展示替えに伴った更新もできる。
- 〆切に追われなくて済むので、スキマ時間に作れる。
用途には下記がある。需要が高まっていて、大学でも映像をつくる授業が増えているという。
- 映像レポート
- 学習用映像
- 展示映像
- 宣伝・勧誘映像
- ビデオプロトタイピング
展示映像
映像には、他の博物館資料と同様に、「一次映像資料」と「二次映像資料」とがある。映像そのものが価値を持つものが一次映像資料で、それをよく理解するための解説を映像化したものなどが二次映像資料だ。詳しくは青木豊先生の本がおすすめとのこと。
- 作者: 青木豊
- 出版社/メーカー: 雄山閣出版
- 発売日: 1997/09
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
本日のメインは二次映像資料となる。これは、博物館が来館者に対してメッセージを伝えるためのもので、以下の型があげられる。
1)実物資料開設型
2)資料映像開設型
3)復元開設型
4)知的好奇心喚起型
5)ドキュメンタリー型
6)完成重視型
もちろん、スマートフォンでも映像はつくれるが、大きな画面に投影する場合はそれなりのサイズ(inchi)で撮影する必要がある。たとえば、TBSが主催した国立科学博物館の「大アマゾン展」では、なんと4Kシアターを活用している。この場合は、きちんとした機材で撮影をする必要が出てくる。
ロンドン科学博物館では、雪上車などの実物展示に映像資料が添えられている。また、国立民族学博物館の展示では、PSP(プレイステーション・ポータブル)を持って展示フロアを歩くと、関連映像が流れてくるという仕組みを取り入れている。
博物館で解説用の機材を配らなくても、最近はスマートフォンという形で、ハードを来館者が持って来てくれる。「モバイルファースト」の考え方で、「来館者の画面をねらえ」がキーワードとなっているそうだ。
映像資料のデメリットは時間拘束性。来館者は自分のペースで見られないこと。メリットは、冗長度。文章では説明しきれないことが映像なら数十秒でわかる。
映像制作を学ぶ
映像資料をつくるのに必要なスキルはなにか?
1)機器操作方法
2)企画
3)撮影
4)編集
5)映像文法
6)ワークフロー
大事なのは、2)と4)だが、意外とそれを教えてくれる本や授業は少ないのだそうだ。学芸員は、普段展示を考えているから、構成案をつくるのは得意。メディア特性を活かした構成案を考えられるようになれば、それでもうかなり完成度は高くなる。それから、人に見せる映像は編集が必要。予定していたものが上手く撮れなかった場合どうするか。反対に、予定していなかったけど面白いものが取れたときはどうするかを考える力も必要となる。
映像はすでに、CM、テレビ番組、映画などなど、大量に作られてきているからセオリーは完成している。素人はその方法を模倣すればよい。できるようになったら、生産性を上げて、映像展示に多様性を持たせることも必要となってくる。
撮影の基礎知識として……
1)カメラを固定する:意外と忘れがちだが大事!
2)テーマにあった背景を探す
3)不要なものは取らない
4)動き、賑わいを撮る
5)アップの重要性:アマチュアはアップが少ない
アップを入れるだけで、劇的に変化する。素人が感じるよりも、もう一歩前へ近寄るのがポイント!
最後まで見てもらうための工夫として……
- 長々と回さない。第三者に編集してもらったほうがいいときもある。
- 音が小さかったり、逆光で真っ暗だったりしないようにすること。
- 予想できない展開を見せる面白さが必要。
- ストーリー性もいる。TEDなどのプレゼンの本が参考になる。
- カットに変化をつけて退屈させないこと。
西岡先生は、このような映像制作を大学院生に教えてきたが、これからは専門家向きに提供していく実践研究をしていくそうだ。本講義は学芸員へ、筑波大学とのコラボレーションのお誘いを兼ねたものでもある、とのこと。
すでに協力してくださった北区飛鳥山博物館では、3万円くらいのビデオカメラと、Macに無料でついているiMovieを使って、学芸員が自ら映像をつくった。隙間時間にコツコツ作業し、計10時間ほどで完成したそうだ。博物館での映像展示は、実物とその場で見比べられるのが他には無い魅力である。
実際にやってみて、学芸員が感じたメリットは……
- 自分でつくるれるので、気軽に映像資料を活用できる。
- 広報にも一役買いそう。
逆に、課題点は……
- 機材を買うための初期投資予算を確保しないといけない。
- 他の業務もある中で映像をつくるのは結構大変。隙間時間でもつくれるような工夫が必要。
- すでに機材があっても、なんとなくハードルが高くてやってみようと思う人が少なそう。
映像の活用事例
中目黒の「郷さくら美術館」では、「林潤一の世界」という展覧会で映像を活用している。「ポケット学芸員」というアプリを使い、実際の作品の前で、作者本人がその絵について語っている様子を視聴できるのだ。
最後に
「第三の映像」制作に必要な3つの能力は……?
1)対象に対する専門性:これはまさに学芸員の強み
2)映像作成に対する知識とスキル:意外と簡単!
3)企画・構成力:ここもポイントをつかめば可能
意外とハードルは低く、自作の映像資料はつくれる。だれでもが気軽に映像をつくり、それを自分の仕事に役立てられる時代は近い。その皮切りを、もしかしたら学芸員が担えるのかもしれない。
後編はこちら。
mia.hateblo.jp