醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

水族館劇場「この丗のような夢・全」@新宿花園神社を見に行く

3年ぶりとなる水族館劇場の野戦攻城は、ついに念願の都心へ。新宿はゴールデン街の鎮守、花園神社境内で華々しく幕を上げた。

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新宿区役所本庁舎にもほど近いこの花園神社は、もともと藝能と深い関わりのある神社だ。江戸時代から見世物や演劇、踊りなどが興行された。水族館劇場の巨大なテントが建っていても何の違和感もない。ゴールデン街の街並みと地続きに、まるで遙か昔からそこにあるかのように、今宵の舞台はそびえるのである。

パノラマ島綺譚外傳 パノラマ島綺譚外傳 "この丗のような夢" 特設サイト|水族館劇場

おじゃましたのは千秋楽。遅筆で有名な桃山邑氏の台本も、役者の身体に染み込み滑らかに展開していく。

遠い遠いはるかな昔。街道宿の蚕の森に、斃れた獣を屠る馬殺しの井戸があった。そこはかつて龍が棲んだという伝承を持つ涸れはてた池の水源であり、天変地異がおこるまえぶれに 血のような赤い水が湧き出たという。

Information|水族館劇場

千代次が演じるのは老いた大女優。もう一旗揚げる為に寂れた劇場「赤い風車の館」へやってきた。錯綜する時間、神話と伝説、この世のものではない者たちの抗争。かつての公演でも繰り返し取り上げられたモチーフである、母と娘の確執、藝能の神、歪められた自然。何度も塗り重ねられていくようにして物語は進む。いや、進んでいるのか、循環しているのか。

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恒例の瀧のように流れ落ちる水や、動物との共演の他、今回は本格的なクレーンで飛行機を釣り上げる(もちろん、それにも役者が乗っている)という大掛かりな仕掛けもあった。もはやこの場所こそが、物語の中で言うパノラマ島の人工地獄だ。

まだまだ描き切れていない場面があるように感じた。物語の中でも風兄宇内が演じる劇作家のオババが「この場所で演じられる最高の物語はこれではない!」と叫ぶシーンがある。 それは演出の桃山氏の叫びでもあるように思う。

「また必ず、年内に完全版を首都圏で上演する」。打ち上げで桃山氏はそう言い切った。次の動きから目が離せない。おれはたぶん近いうちに、またこの野戦攻城に足を踏み入れるのだろう。この世の外へこぼれ落ちて行く、声なき人々の叫びを聞くために。

おもいだしてごらん
全世界が消滅したあとに
それでも眼をたずねてくる
はるかなる廢園のまぼろし

水族館劇場「この丗のような夢・全」

臺本+遅れ+監督:桃山邑
出演:千代次/山本紗由/増田千珠/松林彩/石井理加/竹田舞/南海里/臼井星絢/七ッ森左門/秋浜立/髙橋明歩/伊藤裕作/羽鳥和芳/一色凉太/二見健太/山中秀太郎/淺野雅英/津田三朗/風兄宇内

花園神社 境內特設野外儛臺「黑翁のまぼろし」(東京都新宿区新宿5丁目17-3)
2017年4月14~23日 
全公演 夜7時劇場外顔見世(プロローグ)スタート
全席自由期日指定 上演時間 約130 分

序・顏見卋  歸還するオルフェの歌
破丿幕    戀する獸の呼聲
幕間     棄鄕の夜の糸姫
急丿幕    鏡に幽閉された女優
幕外     沈默にうかぶ赤い風車

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