醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

武蔵野プレイスはなぜ「複合機能施設」として誕生したのか? ~「図書館総合展2017 フォーラム in武蔵野」に行って来ました(前半)

年に数回開催される図書館総合展の地域フォーラム。2017年の第2回は、東京都武蔵野市で開催された。

武蔵野で図書館と言えば、やはり「武蔵野プレイス」だろう。3部からなるフォーラムの大トリ「年間190万人を集める武蔵野プレイスの設計と実践」は、武蔵野プレイス立ち上げに携わった前田洋一氏(武蔵野生涯学習振興事業団 理事長)を語り手とし、野末俊比古先生(青山学院大学教育人間科学部准教授)が聞き手を務める形で開催された。会場は成蹊大学である。

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会場となった成蹊大学。緑あふれるキャンパスにある大学図書館は、キノコのような独特な形状をした「プラネット」と呼ばれるグループ閲覧室が有名だ。撮影禁止のため、館内の写真をお見せできないのが残念だ。

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フォーラム会場は6号館4階の会議室。登壇しているのが前田洋一氏。

「コミュニティの場」としての公共施設が必要だ

ひと・まち・情報 創造館武蔵野プレイス」は、2011年(平成23年)7月9日に開館した。「武蔵野プレイス」という名前だけ聞くと、マンションだと思われることもあると前田氏は苦笑する。しかし計画段階から呼ばれていたこの名称が、一般公募でも一番人気だったそうだ。「複合機能施設」であるこの公共施設は、図書館、生涯学習センター、市民活動センター、青少年センターなどの機能を合わせ持っている

時代と共に価値観は多様化し、情報化が急速に進んでいく。デジタル化が進むなか、市民がコミュニティから遊離した状態になっているのではないか? 今こそ「コミュニティの場」としての公共施設が必要であろうと、1998年(平成10年)からこの施設の機能は計画された。

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複合機能施設」という呼び方には意味がある、と前田氏は説明する。これまでの複合施設は、ただ単に複数の部署が同じ施設内に入居しているだけだった。しかし武蔵野プレイスの場合は、それぞれの役割が並置しているのではなく、機能として連携・融合しているのだ。

複合機能を相互に支える<ハード>と<ソフト>

武蔵野プレイスのハードソフトは相互に作用し、複合機能を支えている。

ハードに代表されるのは「ブラウジング」のための構造だ。図書館用語としての「ブラウジング」とは、特に目的無く本棚をめぐり、気になる本を見つける行為を指す。武蔵野プレイスでは、あえて図書館フロアを多層の階に散らしている。ぐるぐると館内を歩き回ることで、目的以外の本にも出会う機会をつくろうという仕掛けである。

一方で、ソフトである一体的管理・運営には、指定管理者制度を採用して対応した。管理者となった公益財団法人武蔵野生涯学習振興事業団のスタッフは、それぞれの専門性を持ちながらも「自分たちは武蔵野プレイス全体のスタッフである」という意識を持って業務に当たっている。

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目的を持って行く施設から、なんとなく訪ねたくなる施設へ

公共施設にある課題は、「忙しいビジネスパーソンへ、どうやってサービスを届けるのか」ということだ。なかでも図書館は、リタイヤしたシルバーや、絵本を求める子ども連れ、勉強する場所を探す学生たちの利用が多くなりがちである。働く20~50代は、図書館にそもそも期待さえ抱いていないため、行政にクレームを言ってくることもない。物言わぬこの層をターゲットとするため、武蔵野プレイスが目指したのは、「目的的利用」ではなく「状況的利用」を促進させることだった。

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「用事があるから図書館へ行く」という「目的的利用」ではなく、「面白そうだから仕事帰りにふらっと立ち寄る」という「状況的利用」へと舵をきったことで、ビジネスパーソンという新たな利用者層だけでなく、従来の利用者も喜ぶようなサービスが提供できるようになった。

大人立ち入り禁止!? 青少年の王国

さて、武蔵野プレイスで最も特徴的と言われるのが、「青少年活動支援」だ。それまでまちには、やんちゃな青少年の過ごす居場所が無かった。騒ぐとすぐに大人たちから「うるさい!」と叱られてしまうからだ。

武蔵野プレイスの地下2階「スタジオラウンジ」は、そんな青少年たちの王国である。このフロアだけで年間の来館者は10万人にもなる。人が集まりすぎて、フロアの二酸化炭素の数値が上がってしまうなんていう冗談みたいなこともあったそうだ。

ここでは読書はもちろん、宿題をしたっていいし、おしゃべりをしても、はしゃいでも構わない。お菓子やカップラーメンを食べていいし、弁当を温められる電子レンジだってある。ゲームだってOKだ。しかもゲームは貸出までしてくれる。

ただし、ここにはひとつだけ厳しいルールがある。それは、フロア中央の絨毯部分には、「大人は決して入ってはいけない」ということ。

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このルールを決めるまでには、かなりの葛藤があったそうだ。「大人だって使わせても構わないのではないだろうか」という意見もあった。しかし、もし勘違いした大人が、にぎやかにはしゃぐ子どもたちを「うるさい!」と叱ってしまったら、このスペースの意味はまったくなくなってしまう。思い切ったルールではあるが、この決まりがあるからこそ、武蔵野プレイスの地下は子どもたちの王国となったのだ。

子どもたちには、複合施設の持つさまざまな機能をどんどんと使ってもらいたいという思いがある。けれど、本を手に取るところまでいくのはハードルが高いらしい。そのため図書館担当者は、ついにこのフロアに本を持ってきて、直接手渡してみるというデリバリーサービスまで始めた。

なお、このフロアにあるダンススタジオは、子どもたちからも利用の際にお金を徴収する。これは、「公共で使うものが壊れてしまった場合には、それを直すお金が必要である」という認識を子どもたちに身につけてもらうためだという。

驚異の来館者数

開館当初の来館者数目標は年間80万人だった。これは、今までの中央図書館(武蔵野市には「武蔵野プレイス」以外に、中央館機能を担う図書館がある)の来館者数を遙かに上回る数である。びくびくとしながら設定した目標値だったが、開館してみるとあっという間に達成してしまったという。なんと最初の9ヶ月間で、100万人を突破……! 開館から6年経ち、累計来館者数は1000万人を超えた。理由は定かではないが、中央図書館の利用も同様に伸びてきているのだそうだ。

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(つづきます)
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