〔日記〕AIが世界に浸透したその後
とても行乞なんか出来さうもないので、寝ころんで読書する、うれしい一日だつた、のんきな一日だつた。
種田山頭火 行乞記 (一)
一日の憂は一日にて足れり――キリストの此言葉はありがたい、今日泊つて食べるだけのゲルトさへあれば(慾には少し飲むだけのゲルトを加へていたゞいて)、それでよいではないか、それで安んじてゐるやうでなければ行乞流浪の旅がつゞけられるものぢやない。
長月五日、曇り。
AIが世界に浸透した、その後の未来の夢を見た。人口は激減し、都市にはほとんど人は住んでいない。巨大なビルディングは、オフィスビルでもデパートメントストアでもなく、それそのものがAIのサーバーとして建てられている。タワーレコードの後進がその良い例で、外壁はすべてデジタルサイネージの広告塔だ。
でもそれからさらに技術は進歩して、世界中のAIを起動させるのにそんなに大きなサーバーはいらなくなった。どうしてもサーバーが必要なら、月の裏側に建築すればいいのだ。だから今、東京を埋め尽くすビルはほとんど廃墟である。
廃墟ビルの活性化計画が立てられた。かつてのAIサーバービルの屋上を、鉄道の線路として使うのだ。しかし、進歩を続けた情報処理学とは裏腹に、建築技術は進歩どころか、退化している。なにしろ人口が減り、新しい巨大施設や交通機関をつくる必要はほとんどないのだから。
パズルのように屋上に引かれた線路は機能しない。どれもこれも失敗作だ。では、屋内を改造して部屋として使えばいいのでは? という意見もあったが、いつ崩れるかわからないようなビルを居住地にできるはずもない。
開発が進んだ月は軌道がずれてしまい、この頃は満月になると、地球に衝突しそうなくらい接近してくる。それを人工の磁場発生装置を使って、必要に応じておしやっている。
昼間の白い月は、とても近いところに浮かんでいるから、クレーターまでよく見える。急に大きく動き出すこともあるけれど、心配しなくていい。それは、磁場発生装置が起動している証拠だから。磁場が発生すると、月はわずかに自転をし、裏側を見せる。裏側には巨大な設備がところせましとその地表を埋め尽くしている。
私は、廃墟ビルのひとつにこっそりと住んで居る。巨大なゴキブリや、よくわからない虫がときどき発生するが、だだっ広くて薄暗いこの無機質な部屋を案外気に入っている。野良猫に餌をやりながら、巨大な月を眺めているのだ。
二日酔い。奢ってもらって呑むのはよくない、と反省する。自分のペースで呑むのがいちばんだ。私は酌をされるのだって嫌だ。
生理が激しく、あまり動く気がしない。昼にジロウにカレーうどんをつくってもらう。
日記を書いて、
働くとは、「はた」(他の人)を「らく」(楽)にすることだと、何かの本に書いてあった。それは、自分を犠牲にして他人に尽くすのではないのだ。自分が「楽」でいることが先なのだ。
— 野原海明/小説家 (@mianohara) October 13, 2018
〔日記〕働くとは - 醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明(@mianohara) https://t.co/8EL3q7w5zI
小説を書く。
美里を終電間際の電車で見送り、携帯電話の設定は諦めてそのままぱったりと寝た。翌日、パソコンを開いたら、パソコンでしか使わない方のアドレスに坂井から長いメールが二通も届いていた。
— 野原海明/小説家 (@mianohara) October 13, 2018
白濁(四十九) - 終わらない夏 @mianohara - g.o.a.t https://t.co/VA5sQkOMi2
とりあえずそこまでできたのだから、もういいことにする。何かを思いきり進めた後は(たとえば公式サイトをリニューアルしたりだとか……)反動というか、揺り返しがくるものなのだ。
ほんの1キロ足らずも歩く気力がなく、近所のコンビニでワインとナポリタンスパゲッティと、少しつまむものを買って帰る。『無尽』を読み返す。
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20時前にはぱったりと寝てしまう。