醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

おかざき真里『阿・吽』に魅せられて、特別展「国宝 東寺ー空海と仏像曼荼羅」を観に東京国立博物館へ行く[東京都台東区上野]

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帝釈天騎象像 平安時代・承和六年(839年)東寺

特別展「国宝 東寺ー空海と仏像曼荼羅」を観に東京国立博物館(トーハク)へ行って来た。「空海展」とも呼ばれるこの展覧会を観に行こうと思ったのは、おかざき真里による漫画『阿・吽』を読んだのがきっかけだ。

『阿・吽』は、天台宗の祖である最澄と、真言宗の祖である空海の生涯を描いた漫画だ。歴史の教科書の中でしか知らなかった彼らが、漫画の世界では生き生きと呼吸している。その狂気にも似た情熱に、私はすっかり惚れ込んでしまったのだ。

空海が最澄に宛てた手紙「風信帖」の実物が見られる

『阿・吽』第9巻(2019年4月現在コミック最新巻)で、唐から日本に戻った空海は、最澄に宛てた手紙を書いている。「風信雲書、白天翔臨」(風のように雲のように美しいあなたの手紙が天から舞い降りてきました)から始まるこの手紙は、その書き出しを取り「風信帖」(ふうしんじょう)と呼ばれている。

飛白体(ひはくたい)と呼ばれる、リボンがひらひらとはためくような書体で書かれた「風信帖」は、多くの書家に手本とされてきた。その実物を空海展では見ることができるのだ(なんとグッズにもなっている。手ぬぐいを買いました)。

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「風信帖」手ぬぐいと「金剛虚空蔵菩薩坐像」のお獅子のボールペン。

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金色の文字が美しい。

実物の書を前に、ぞわぞわと鳥肌が立つような懐かしさを感じる。空海が実際に使っていたと伝わっている「水精念珠」も、あまりの懐かしさに涙が出てくる。私は過去で何か関係していたのかもしれない、とちょっと思う。

仏像を配置した立体曼荼羅は見どころ!

空海展の目玉は風信帖に留まらない。東寺に納められた密教美術の最高峰が一堂に会しているのだ。

東寺は、延暦13年(794年)の平安京遷都とともに、都の入り口である羅生門の東に創建された官寺だ。当時、都の中に建てることを許された寺は東寺と西寺だけだった。羅生門も西寺も現存しておらず、東寺のみが残っている。

弘仁14年(823年)、東寺は嵯峨天皇から空海に下賜された。空海が手がけた講堂には、21体の仏像からなる立体曼荼羅が安置されている。今回の展覧会では、これらの仏像のうち帝釈天騎象像を含む国宝11体、重要文化財4体の史上最多となる合計15体が出品されている。ご覧の通り超イケメンの帝釈天騎象像のみ、写真撮影可能。

金剛夜叉明王立像は、エヴァンゲリオン2号機を思い起こさせる。何がって、目が。サムズアップ! と言わんばかりに上げられた足の親指がチャームポイント。

これらの仏像が曼荼羅の配置にのっとって、広い展示室にずらりと並ぶ。贅沢にも、ぐるりと一周、背中まで見られるのだ。自分も菩薩や明王になったつもりで、一緒にスポットライトを浴びてみる。気持ちいい。

東寺講堂の仏像は、岡野玲子の漫画『陰陽師玉手匣』にも登場する。本物の写真よりも、漫画の絵のほうを先に知っていた。実物を見てもなんの違和感も無い。岡野玲子先生の素晴らしき画力。『阿・吽』と合わせてぜひお読みいただきたい。

金曜・土曜は21時まで開館。静謐な夜の空間を愉しむのも良し

通常の開館時間は9時半から17時までだが、金・土のみは21時まで開館している(入館は閉館の30分前まで)。私が訪れたのは2019年3月22日(金)の18時過ぎ。入館に待ち時間は無く、人はそれなりに多いが適度にゆったりと堪能できた。仕事帰りと思われるスーツ姿の男性を多く見かけた。静かな夜は、曼荼羅の雰囲気にしっくりくる。

さて、真言宗では、空海は死んだのではなく、入定(にゅうじょう)と呼ばれる永遠の瞑想に入ったと信じられている。東寺では、今でも毎日食事を届けているのだそうだ。だから、いつか空海本人に会えるのではなんて、思ったりするのだ。


特別展「国宝 東寺ー空海と仏像曼荼羅」
会場: 東京国立博物館[平成館](上野公園)
    〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
開館時間: 9:30~17:00 ※金・土は21:00まで
     (入館は閉館30分前まで)
休館日: 月曜日、5月7日(火)
     ※ただし4月1日(月)・29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館

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