醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

願いを引き寄せるには「違うこと」をしないこと。でも、その「違うこと」って何?

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よしもとばなな *1 さんの小説『花のベッドでひるねして』に登場する主人公の祖父は、引き寄せの方法の達人だ。家族のだれかが「アイスが食べたい」と言えば、「よし、わかった。何味かは選べないよ。」と言って、ただにこにことしている。しばらくすると近所の人が突然やってきて、あまったアイスをくれたりする。祖父自身が「クィーンのTシャツがほしい」と望んだときには、空からTシャツがふわふわと落ちてきた。祖父が言うには、自分が偉大なのではなくて、フレディがすごくて通りがよいから、願いが通じやすかったらしい。

「通じやすくしていれば通じる。そのためには…」

と祖父は、コツを語り始める。

「だいじなのは違うことをしないことだ。」

えっ、でも、その「違うこと」って一体なに?

願いを引き寄せるのよりも前に、大切にすることとは?

その問いに答えるかのように、吉本ばななさんは2018年10月に『「違うこと」をしないこと』という本を刊行された。こちらは小説ではなく、エッセイと対談だ。

 自分の人生は、自分のものです。
 どんな人であれ、自分そのものを生きることが大切。
 そのためには、まず自分に正直であること。
 そして、他人と正直にコミュニケーションすること。*2

この本の第一章冒頭に書かれていることこそが、「違うこと」をしないことの説明なのだと思う。つまり、「自分に正直であること」「他人と正直にコミュニケーションすること」。

それは、「したいことをする」「言いたいことを言う」に似ているけれど、微妙に違うのだとばななさんは言う。もっと、流れに乗る感じ。体の力を抜いて、サーフィンをするみたいに。

たとえば知り合いに、何かにお誘いされたけど「気が進まないな」と感じたとき。「でもやっぱり義理だから」とか「後で役に立つかもしれないし」とお誘いに乗ると、それは「違うこと」になってしまう。

「自分」が何を求めているのかわからないときには

そんなとき、自分に正直になってきっぱりと断るのも難しいことだ。でもそれよりさらに問題なのは、「気が進まない」という自分の気持ちを見逃してしまうことだと思う。

周りに合わせていると忘れてしまう。「自分」は本当は何が好きで何が嫌いだったのか。何をしたくて何をしたくないのか。そうしたら、自分に正直になりようもないし、何が「違うこと」なのかもわからなくなってしまう。

そんな状態で、でもとにかく今やっていることがつらいなら、それを止めるところから始めてみる。周りからの情報をシャットダウンして、休んでみるのも方法のひとつだと、ばななさんはおすすめしている。

「他人」の願いを引き寄せようとしていないだろうか?

引き寄せの法則を使って、願いを叶えようとしてもうまくいかない。それは、根本となっている「自分」を見失っているからだ。自分が引き寄せようとしているものは、よく見れば「他人の願い」ではないだろうか? 他人から「幸せそう」に見えるために、その願いを引き寄せようとしていないだろうか?

本当は自分は何が欲しいのだろう? 何をしたいと思っているのだろう? わからなくなってしまったときには、先に「嫌いなもの」は何か、「やりたくないこと」は何か考えてみたほうがスムーズにいく。そしてそれをスッパリ手放す。マイナスから急にプラスに振ろうとするのではなくて、ニュートラルな、ゼロの状態に戻ってみる。

いやなものを手放してゼロになると、自分が「心地よい」と感じるものが何かも見えてくるだろう。そしたらそれを、とことん自分にゆるす。気持ちいいこと、楽なことをしていてもいいんだと、自分に許可を出す。

願いを引き寄せるには、「違うこと」をしないこと。それはつまり、「自分」はどう感じているのかにちゃんと気づいて、そのとおりの言動をすることだ。

その瞬間にすべきことはただ一つ(追記:2019/06/23)

この記事を公開後、ばななさんから直接Twitterでお返事をもらいました。

「違うことをしないこと」は、「自分に正直に行動する」ことの一歩先にあるものらしい。

人間ってノイズが多いから、つい別のことをしようとするんだけど、その瞬間にその人に求められる行動、動作、考え、発言っていうのは、本当はひとつしかない。宇宙がその瞬間に「しなさい」と言っていることと、その人が「したい」と思ってることが呼応して、ピタリと一致するところがあるんですよ。*3

自分の「したいこと」と、宇宙が「させたいこと」が交差する点は一つだけ、というニュアンスなのですね。だから、「自分に正直に生きる」という表現ではなく、「違うことをしないこと」という言葉になるのかぁ(ようやく理解)!

*1:2013年当時。現在のペンネームは漢字表記の「吉本ばなな」に戻っている。

*2:吉本 ばなな. 「違うこと」をしないこと(角川書店単行本)(Kindle の位置No.39-41). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

*3:同上(Kindle の位置No.160-163)