醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

図書館カウンター、委託職員のやりがい。

図書館のカウンターは接客業、サービス業。もちろんスマイル0円です。飲食店みたいに、笑顔の接客がすぐ収入UPにつながる! というわけではないけれど。それでも人対人の仕事です。それも、一対多。一人ひとりと接する時間は短いかもしれませんが、一日に人と話す量は数え切れない程! 初めて会う人もいれば、毎日決まってやって来る人もいる。とにかく、わずかな時間の間にたくさんの人と接する仕事です。

もちろん素敵な人もいて、心温まる瞬間もある。そうかと思えば、敵意を振りまきながら歩いているとしか思えない、仏頂面の人も来る。ぶっきらぼうに本を突き出されるとこちらも人間、ついムッとしてしまいそうになる。それでもそんなことおくびにも出さず、笑顔を返したいと思う。

昼休みには近所の喫茶店に出掛けます。そこでは私の方がお客さん。お手伝いのお嬢さんの明るい「いらっしゃいませー!」と満面の笑顔に救われるような思いがします。午前中の疲れもその瞬間には忘れてしまいそうになる。シフォンのロングスカートと真紅のシュシュのよく似合う、そのお嬢さんの笑顔をみるためだけに珈琲を飲みに行く私です。

仏教では笑顔を施すことを「和顔施(わがんせ)」というのだと瀬戸内寂聴さんが書いていた。私は熱心な仏教徒ではないけれど、お釈迦さまの教えがとてもすきです。お金を誰かに施すことは今の私にはまだ難しいけれど、笑顔だったら無尽蔵。

お嬢さんの笑顔に負けないくらいの笑顔を、図書館に来る人たちに手渡したいと思うのです。固い事務的な対応は、それが得意な人にお任せをして。

委託職員の仕事は限られていて、いくら司書の資格を持っている人でも本格的なレファレンスは担当できません。一日の大半が、貸出・返却の作業に費やされます。今は自動貸出・返却機械のある時代。貸出・返却だけだったら、機械にやってもらったほうがきっと早いし正確だし、プライバシーも守れる。それでも敢えて人の手による貸出・返却をするのなら、人間にしかできないことをしないといけないと思う。

私は図書館職員ではあるけれど、胸を張って「司書です」とは言えない。いずれはレファレンスも蔵書構成も担う仕事がしてみたいけれど、今の単調なこの仕事も気に入っています。

ウンターの仕事は、笑顔を手渡す仕事。殺伐とした世の中だもの、ほんの短い間だけでも、人の温かみを感じて欲しい。だから今日も私は、喫茶店で英気を養ってカウンターに立つのです。どんなに混みあって忙しくなっても、その人の目を見て微笑むことは決して忘れない、それも表面上の微笑みじゃなくて、心からのエールを、と自分に言い聞かせているのです。