2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧
店を出て、恐る恐る周りを見渡す。 当然、坂井の姿は無い。 ほっとするのと同時に、胸が詰まる。胸が詰まるのと同時に、なんとも言えない解放感がある。 よくもまあ、今までずるずると続けてこられたのだろう。吸ったことはないけれど、煙草みたいなものなん…
「持っている財産の量が今たまたま多い」金待ちじゃなくて、「必要であればすぐにお金を集められる」金持ちになりたいなぁと思う。
ぐおーん、と、体中の細胞に音楽が染み込んでいく感じ。慈雨みたいな。ステージ端から端まで、とても広くて、見逃さないようにじいぃっと見た。体が自然にテンポを刻み始める。尻尾を揺らすように波に乗る。 ロケット・マツさんがひとさし指を立てると、ドカ…
パスカルズの前座で歌うことになって、横浜のサムズアップに初めてやってきた(おこがましくも、そんな夢を見た)。ズンさんのギターで歌うことになっている。遠方からやってきた前職のお客様も、「たまたま横浜で他のイベントがあるから」と申し込んでくれ…
「じゃあ俺、行くわ」 坂井は言った。いつもより大きく見開かれた目、無理やりあざ笑うようにに歪められた口。 「俺、あんたにずっと隠してたこと、あるんだわ」 そう言って短く引き笑いをした。
三十代にして、もう一度中学に入る決意をした。今日は卒業式である。教壇に立つのは藤本さきこで、Tが書いた花(アネモネだろうか?)の絵を黒板にチョークで写し取っている。 見ればクラスメイトには、中学の同級生と高校の同級生が交ざっている。机をきれ…
高崎の実家に、主人と、主人の子どもたちと一緒に住んでいる。三人兄弟の末の女の子はまだ小さくて、小学生だ。長男は成人していて、私が呑みに行くのにいつも付き合ってくれる。十歳くらい年下の、血の繋がっていない青年を連れて歩くのは、なかなかいいも…
きっと、お互いに表面しか見えていなかったんだ。外見だとか、体だとか。それでもずっと恋していた。 私は、別れる今になって、ようやく自分の内側を坂井の前にさらけ出しているのかもしれない。
長く日々を共にした二人が、個々に別れて暮らすことを決めるまでの記録にも読める。さらりと過ぎていく日記の中に、きっとこれが決定的な日だったのだろう、という言葉が挟まれている。
高山なおみの『帰ってきた日々ごはん』3巻を読む。学生時代、高山さんとスイセイさんの夫婦の暮らしに憧れていた。幾年月が流れ、何が変わり、何が変わらないままなのかをのぞいてみたくなって。
「俺が仕事をしている間に、あんたはその男とよろしくやってたってわけだ」 久しぶり、とかいう挨拶もなく。昼下がりのカフェにはまったく不似合いな話題だ。隣の席に座っていたサラリーマン風の男が、ぎょっとして坂井の顔を見た。気まずそうにカップを口に…
よしながふみの『大奥』を読み始める。男女が逆転してしまった大奥の、その深い闇に惹かれる。女性が働くその架空の江戸は、働き蜂や蟻の社会のように見えた。
「そう。だから、もう家では会いたくない」 「あんた、ほんと最低なやつだな」 付き合ってから今までで、一番早く戻って来た坂井のメールだった。皮肉なことに。
ロジャー・ハミルトンの『才能は開ける』を読んで、気になっていたウェルスダイナミクスのプロファイルテストを受けてみる。 予想に違わず、「クリエイター」だった。次点が「メカニック」で、その次が「スター」。チームで一番向いていない役割は、時間管理…
リアルでひたすら長い夢を見る。二日酔い気味の日は、濃度の濃い夢を見ることが多いようだ。違う世界に飛ばされているのかもしれない。 夢の中は殺伐とした殺すか殺されるかの世界だった。命を狙われていることに気づいたとき、「今死んだら、吉本ばななが出…
鎌倉歴史文化交流館に立ち寄る(長い名前だ、もっといい愛称とかつければよかったのに)。入館料300円。わりと楽しめる。開館時間は16時までと短め。今度はもうちょっと早く来よう。 もとは、フォスター+パートナーズが設計した〈Kamakura House〉という住…
母校の中学に講師として呼ばれる夢を見る。自分は大学生で、教育関係の単位を取るために、母校との連携カリキュラムが今年から導入されることになったらしい。教員免許を取得するのに必要な課程であるようだ。
昔の恋人夫婦と、4人で暮らしている夢を見る。彼の奥さんは小柄でひかえめで、可愛らしい人だ。布団を二つ並べて敷いて、4人同じ部屋で眠るのだ。 ある日寝ようと思ったら、もう遅い時間なのに昔の恋人だけが寝室にいない。探すと、彼の仕事部屋でソファーに…
冒頭部分の描写はまだるっこしさを感じてしまうが、我慢して読み進めていくと、あるところからグッと引き込まれるのを感じるだろう。謎が謎を呼び、ひとつ謎が解けるたびにさらに謎が増えていく。
ずっと雲堂を使っていたが、瞑想アプリをmuonに変えてみる。今日の脈拍は「快晴」らしい。
夜中、気持ち悪くなって目が覚める。何度か吐けばおさまるかと思ったが、全然おさまる気配は無い。トイレまで何度も往復し、最後には苦くて黄緑色の胆汁ばかりが出てくるようになった。
「結衣ちゃん、ほんとうにタケシさんと付き合ってるんだね」 カウンターで隣合わせたアカリさんが、煙草をくゆらせながら言った。いつものように夏の雪を呑んでいた。 私はなんて答えたらいいかわからなくて黙っていた。待ち合わせをしているタケシさんは、…
RAMへ。井上としのり氏のライブ。乱入して久しぶりに歌う。生ビール、ブルドッグ。ほろ酔いで帰る。ジロウの買い置きのカップうどんに、お手製の梅干しを入れて食べる。夜中、気持ち悪くなって目が覚める。
夢の中の町は崖が多いところだ。断崖絶壁に石段がひかれ、そこだけ歩きやすくしてある。あとは斜面に鬱蒼と草が覆い茂っているのだ。 友人の工房はその断崖に面している。白壁の廃屋を安価で借りているらしい。元はホテルだったと思われるそのビルディングは…
RAMでAZUMIさんのライブ。泣けた。生ビール、ブルドッグ、赤ワイン。
あさつきへ。日本酒、カワハギ、秋刀魚。今年初の秋刀魚塩焼きだった。
「三日間休みを取ったから、最後にその間だけ全部、俺のものでいて欲しい。君が作った料理を食べて、どこにも出掛けずにずっと君の部屋にいたい」 最後に話をする日程をメールで相談したら、坂井からはそんな返事が送られてきた。職場の昼休み、学食のテーブ…
たとえば、収入。「自力で稼ぐ」と息巻いていたけれど、そもそも「自力で」っておこがましくないか? 家族からお金をもらうのと、それ以外の他人からお金をもらうのと、何が違うのだろうか。
坂井に電話をかけた。 短い呼び出し音の後、かすれた声で坂井が「はい」と言った。 「大丈夫?」 と私が訊くのも変だし、大丈夫では全くなさそうだけれど、そうとしか言えなかった。 「うーん」 と坂井は、低く唸るように言った。
ウェルスダイナミクスのテストももう一度受けてみる。プロファイルはやっぱり「ダイナモ」で、ウェルススペクトルは「赤」(生存者)から「オレンジ」(労働者)に上がっていた。10ヶ月かけて、おれはようやく情熱を見つけるところまでたどり着いたんだろう…