醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

〔日記〕 渋谷

雪空、 痒いところを 掻く 山頭火 一月十四日 曇、降りさうで降らない雪模様。しかし、とにかく、炬燵があつて粕汁があつて、そして――。 東京の林君から来信、すぐ返信を書く、お互に年をとりましたね、でもまだ色気がありますね、日暮れて途遠し、そして、…

〔書評〕自分の心のなかが、いちばん遠い。~ 三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』

主人公の多田啓介は、まほろ市で細々と「多田便利軒」という便利屋を営んでいる。多田便利「屋」ではなく、ラーメン屋みたいに「軒」にしたのは、行天春彦いわく、 語呂が悪いから? 『便利屋多田』だと、だと、やっぱり『便利屋タダ』みたいだしね*1 という…

本を出すということ

曇り日の 重いもの 牽きなやむ 山頭火 一月十二日 曇、陰欝そのものといつたやうな天候だ。 外は雪、内は酒――憂欝を消すものは、いや、融かすものは何か、酒、入浴、談笑、散歩、等、等、私にあつては。 種田山頭火 行乞記 三八九日記 「小説家の卵の」 「小…

〔日記〕 故郷は遠く、遠い。ただ草津を歩くことにする。

一月十一日 曇つて晴れる、雪の後のなごやかさ。 あんまり寒いから一杯ひつかける、流行感冒にでもかゝつてはつまらないから、といふのはやつぱり嘘だ、酒好きは何のかのといつては飲む、まあ、飲める間に飲んでおくがよからう、飲みたくても飲めない時節が…

群馬県の草津町には、暖簾をくぐって入る「温泉図書館」がある

草津の町にはしんしんと雪が降っていた。部屋の中にいても硫黄の臭いがしてくる。空気中に漂う温泉成分のせいで、テレビなどの電化製品は一年程で壊れてしまうのだそうだ。クレジットカードの金色の部分も、空気に触れるうちに黒くくすんで使えなくなる。 お…

〔日記〕 サイン

ま夜中、 熱いものを すゝる 山頭火 一月六日 雨、何といふ薄気味の悪い暖ヌクさだらう、そして何といふ陰欝な空模様だらう。 次郎さんに手紙を書いた、――その心中を察して余りある事、感傷的になつては詰らない事、気持転換策として禅の本を読まれたい事、…

〔日記〕此岸

灯が一つあつて 別れてゆく 山頭火 一月五日 霧が深い、そしてナマ温かい、だん/\晴れた。 朝湯へはいる、私に許された唯一の贅沢だ、日本人は入浴好きだが、それは保健のためでもあり、享楽でもある、殊に朝湯は趣味である、三銭の報償としては、入浴は私…

〔日記〕 「素顔美人を目指しているんですか?」

一月四日 曇、時雨、市中へ、泥濘の感覚! やうやく平静をとりもどした、誰も来ない一人の一日だつた。 米と塩――それだけ与へられたら十分だ、水だけは飲まうと思へば、いつだつて飲めるのだが。 種田山頭火 行乞記 三八九日記 ジロウ(ダンナ)と出かける準…

お互い「安定した仕事を辞める」ところから始まった新婚生活

一月三日 うらゝか、幸福を感じる日、生きてゐるよろこび、死なゝいよろこび。 当座の感想を書きつけておく。―― 恩は着なければならないが、恩に着せてはならない、恩を着せられてはやりきれない。 親しまれるのはうれしいが、憐れまれてはみじめだ。 種田山…

「編集者になれ」ってそう簡単に言うけどさ

酔へばけふも あんたの事 山頭火 2015年最後の入日 一月二日 曇后晴、風、人、――お正月らしい場景となつた。 暁、火事があつた、裏の窓からよく見えた、私は善い意味での、我不関焉で、火事といふものを鑑賞した(罹災者に対してはほんたうにすまないと思ひ…

〔日記〕 ブルースを唄わせてくれという名のブルース

一月一日 雨、可なり寒い。いつもより早く起きて、お雑煮、数の子で一本、めでたい気分になつて、Sのところへ行き、年始状を受取る、一年一度の年始状といふものは無用ぢやない、断然有用だと思ふ。 種田山頭火 行乞記 三八九日記 久しぶりのライブに備えて…