醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

白濁(十五)

ギャラリーの入り口がわからなくて、何度か通り過ぎてしまった。住宅地の中に建つ無機質なビルの、わざと見つかりづらいように造ったみたいにみえる狭い階段を昇った先に、高橋修二の個展会場はあった。

〔日記〕そのまままだ遂げていない

ノートの移し替え作業。 2月に「やりたい」と思いついて、そのまままだ遂げていないやりたいことが結構あることに気づく。 12月の終わり頃から始めたノートは、ついに17冊目になった。 10日で一冊書き終わるペースだ。

白濁(十四)

ポストカードの写真はやけに暗かった。コンクリートの壁と、そこに這う錆びた金属の棒。それらは複雑に絡まって、中途半端な蜘蛛の巣のように見える。 カメラマンの名前は、高橋修二。 「高橋さんっておっしゃるんですね」 「ああ、まだ名乗ってなかったです…

〔日記〕手を伸ばしても届かない恋

好きすぎるが故に手を出せなかった歴代好きな人たちと男友達が夢に出てくる。 そのひとりの下宿で、久しぶりに飲み会をするのだ。

〔日記〕たくさん呑まなくてももういいだろう

酒は好きだが、たくさん呑まなくてももういいだろうと思うようになった。 「大酒呑み」というキャラクターをつくろうとしていたのだろうなぁ。 呑めないこともないが、呑み続けていても楽しくないのだ。 20時以降は酒を呑まないことにしようと思う。

〔日記〕日がな一日ぶっ倒れている

葬儀の心労と昨日のライブの肉体的疲れ、二日酔いに生理、台風による低気圧でもはやぼろぼろである。 日がな一日布団にぶっ倒れている。

〔日記〕次はおれもそっちへ行くよ

NHKへ。 昭和を感じさせる古い建物だった。 ミラーボールの輝くライブ会場で、ぎゅうぎゅう詰めで飛び上がりながら手拍子をする。 おお、桑田さんが直接声の届くくらい目の前に。 次はおれもそっちのステージの上に行くよ。

小説を書くことはお金にならない?〔アメブロ〕

小説を書いて生きていこうと思っていたのに、 「小説を書くことはお金にならない」 と思い込んでいた。 もし小説がお金になるとしたら、それは、 新人賞を取ったりベストセラーになったりしてから。 それまでは小説は仕事にならない(小説で生活費は稼げない…

白濁(十三)

白く濁ったそれは、飲み食いしたものによって味が変わるのだという。発泡酒ばかり飲んでいる坂井の体液はさらりと軽く、そして少し苦い。 一度、苺を山ほど食べてみたらどうなるか試してみたことがある。スーパーで安売りになっていた苺を三パック買い込み、…

〔日記〕遠くの花火

家に帰ると、花火の音がする。 葉山で花火大会だったらしい。 鎌倉の花火大会は煙だらけでほとんど見えなかったが、葉山の花火は小さくしかしはっきりと見えた。 遠くの花火というのは、もの哀しくていいもんだなと思う。

〔日記〕外から自分の匂いをつけていく

久里浜の家へ向かう。 着いたのが16時頃で、ちょうど涼しくなってきたので草むしりを始める。 始める前に、雑草たちに手を合わせる。 ちょっと人が住んでる感が出てきた。 「オクサンは、外からじわじわと自分の匂いをつけていく猫みたいだね」 とジロウが言…

〔日記〕「フギャー!」と叫んで目が覚める

夢に「偽物の悪の黒い大仏」が出てきた。 おれがコンタクトレンズを洗おうとすると、洗面台に水があふれてきて、レンズが流れてしまいそうになるのだ。 ニョウニョウ、とうなされる。 寝言でも唸っていたらしい。 ジロウに「大丈夫か!」と腕を捕まれて「フ…

〔日記〕思い立ったときにしたいことができる

決められた時間に決められた場所へ行くというのが本当に嫌だ。 思い立ったときにしたいことができる生活が心からありがたい。

〔日記〕理想は失踪だ

葬儀に参列すると、自分の場合はどうして欲しいかなんて考える。 とにかく喪服は嫌だな。 ドレスコードは真紅や極彩色で、おれの昇天を祝って欲しい。 一番の理想は、失踪だ。 看取ってなんか欲しくないし、布団の上でなんか死にたくない。 死期を察した猫の…

〔日記〕粋の反対

電車の向かいの席には、小学生の女の子とそのお母さん。 「そういうこと訊くのは野暮なのよ」 とお母さんが言う。 「やぼってなーに?」 「粋の反対」 「ええー、それは『かえり』でしょー?」 「そういう小学生の理論で答えないの」

〔日記〕時空を超えてすれ違う

無性に海が見たくなる。 浜までぶらぶらと散歩。 50年くらい前、ジロウは独りでこの道を、なぜか「お母さんが死んじゃう、お母さんが死んじゃう」と思いながら歩いたんだそうだ。 50年前のジロウが、母親を亡くした今のジロウと、この瞬間時空を超えてすれ違…

〔日記〕それだとちょっとハイミスな感じ

イオンに行って喪服を買った。 実母の葬儀では、母の喪服をそのまま着ていたから、自分の喪服を購うのは初めてだ。 ワンピースだけど、ジャケットっぽく見えるタイプを選ぶ。 「それだとちょっとハイミスな感じですよ」 と店員さんに、よりワンピースっぽい…

〔日記〕スペシャルサプライズを残して

会えただけで、それは奇跡みたいなことだと思っている。 いつか何でもなく普通に話せるようになる日が来るようにと思うのは、彼らから父親を奪っていったおれには贅沢な願いかもしれない。 でもやっぱり、願ってしまうんだな。

〔日記〕無事にいった!

明け方、ジロウが帰ってくる。 「義母さん、どーした?」 と訊くと、 「無事にいった!」 と言う。 「へ?」 「無事に逝った!」 それは無事なのかどうなのか。 でも、心不全で大往生でスッと逝って、死に目にもちゃんと会えたのだから無事なのか。

〔日記〕利用してしまえばいいのか

名誉欲、見返してやるという気持ち、有名になってちやほやされたいという俗世に紛れた欲。 それらを葬り去るのではなくて、利用してしまえばいいのかと思い直す。 高校の進学特進授業の先生に、 「早稲田を受ける? お前が? あっははははー!」 と爆笑され…

〔日記〕他人からの賞賛を目標にするな

おれは何がしたいのだろうか。 間違った方向に導かれてはいないだろうか。 名誉の為に、見返してやる為に、有名になるために、ちやほやされるために生きてはいないか? 自分の小説で誰かを救おうと思うのはおこがましいことだと知った。 書くのは、ただ自分…

白濁(十二)

立ち飲み屋なんて入ったことがないから勇気が要った。意を決してガラス戸を開け、仕事帰りのサラリーマンばかりのカウンターに、わずなか隙間を見つけて手を置いた。女一人の客は珍しいのか、視線がちらちらと投げられる。 「いらっしゃいませ、なんにしまし…

〔日記〕「お金のために」何かをするなら本末転倒だ

仕事を辞めてから不思議と、ばりばりと働いていたときよりもお金が回るようになった。 蓄えが少なくなってくると、どこからともなくお金が入ってくるのだ。 でも、収入のアテがないのは不安な気がしていて、「収入源を生み出さなくては」という焦りがある。 …

〔日記〕自分の「原型」は何なのか

ディーパック・チョプラの『ゆだねるということ』を読んで、自分の「原型」は何なのかとぼんやり考える。

大学は働くための資格を身につけるところじゃない〔アメブロ〕

お金に対する思い込みって、親の影響を強く受けている。 私を産むときに仕事を辞めた母さんは、離婚したら生活費がなくなるってずっと思ってた。 それで結局、死ぬまで離婚を踏み切れなかった。 母さんは私にこう言った。 「手に職をつけるんだよ」 「結婚し…

白濁(十一)

結婚をゴールとしない恋は、いつしか単調なものになる。もう二人で日中にどこかへ出掛けることもなければ、最初の頃のように飲みに行くこともなくなっていた。ただ坂井は私の部屋に通って来て、もうひとつの自分の家のようにくつろいで帰っていく。それは、…

〔日記〕久しぶりに「雲堂」のアプリで座禅をする

久しぶりに「雲堂」のアプリを立ち上げて座禅をする。 今まで画面を見ないでやっていたけれど、だんだん短くなっていく線香の画像を見ていたら、5分はあっというまだった。

自由に生きるには、自分で生活費を稼げるようにならなくちゃダメ?〔アメブロ〕

「小説を書いて生きていけるなら、カラダを売ったって、ホームレスになったってかまわない」 と思っていた。 それは、断固として就職活動をせず、 ただ書くことに人生を捧げようとした大学時代の私の熱い決意ではあったけれど、 結局のところ、 「小説を書く…

白濁(十)

裏の家の金木犀が咲いた。 台所の窓を開けて置くと、甘い香りが部屋に流れ込んでくる。 畳の部屋に不釣り合いな白いソファーは、ある日突然宅配業者が運びこんできた。坂井からの引越祝いだった。 本人のほうは、やっぱり不機嫌な顔をして時折やってくる。「…

〔日記〕クラゲがたくさん打ち上がっていた

荷物が重いのでいったん家に戻る。 身軽にして、体がなまっているので散歩に出掛ける。 材木座海岸には、クラゲがたくさん打ち上がっていた。