醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

2006-04-01から1ヶ月間の記事一覧

男に尽くす女になど

久しぶりに恋人と週末を過ごす。しばらく日を置いて会うと、お互いぎくしゃくする。かみちがう。出逢うまで、ともに違う場所で生きてきたことを思い知らされる。「俺、肉じゃがつくって待ってるような女は嫌いだな」料理でつろうっていう下心がみえみえじゃ…

恋愛はしんどい。 ~ 川上弘美 「夜の公園」

夜の公園作者: 川上弘美出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2006/04/22メディア: 単行本 クリック: 16回この商品を含むブログ (126件) を見る先日精神不安定の折に、こんな日は本でも買って読みふけろうと思い、生協の本屋へ立ち寄った。川上弘美さんの「…

元気の源。 ~ 「上々颱風名曲選Ⅰ」

上々颱風名曲撰Iアーティスト: 上々颱風出版社/メーカー: エム アンド アイ カンパニー発売日: 2005/12/14メディア: CD クリック: 4回この商品を含むブログ (2件) を見るどんな音楽を聴くの?と訊かれれば、すかさず「上々颱風」と答える。顔に「?」が浮か…

絶望

お隣のマンションからカレーの匂いがする、夕暮。(そんなシチュエーションが、行定勲監督の「贅沢な骨」にもあった。)無性にカレーが食べたくなった。睡眠時間三時間。あまりに眠くてやる気がでないので、自分でつくらずに喫茶店へ食べに行く。学生街であ…

桜の花の散る頃に

都会には緑がないと思っていたが、それは違うのだ。ビルとビルの合間に、密集した家々の隙間に、溢れんばかりの緑が多い茂っている。山に生まれ山に棲む人は、有り余る程の自然に馴れてしまって目を向けることが少なくなるようだが、街に棲む人はほんの少し…

春の珍客

その教室は半地下になっていて、壁自体がそのまま巨大な窓になっている。二メートルほどの高さの窓が連なる下に、五十センチほどの高さの小さな横長の窓が並んでいる。教室に一歩脚を踏み入れたら、沢庵のような匂いがした(前の授業で何が起こったのだろう?)…

こんなこと言われたら、男はひいちゃいますけどね

平安文学の授業での話。平安朝の短歌について説明したあと、先生は現代の短歌を引き合いに出した。 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日*1 言わずと知れた、俵万智さんの短歌である。サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)作者: …

あなたが存在してくれることが喜び

恋人になかなか会えないので、腹が立っている。「明日は空けておくから」「今夜はなんとか時間をとるから」と言って何日が経ったことか。一方で、そうやって腹を立てている自分を情けなく思う。先日、NHK全国音楽コンクールに向けて練習をする、という番組を…

たかがアルバイト、されどアルバイト

アルバイト。だけれど、「バイトだから」と卑屈にならない。おれという人間は一人だから、おれだけにできる仕事をしよう。それは仕事の内容ではなくて、そこにまとう雰囲気。このバイト、第一週目。大衆食堂のレジや、厨房のバイトはしたことがあったが、き…

情報を書かないこと ~ 荒川洋治 「夜のある町で」

夜のある町で作者: 荒川洋治出版社/メーカー: みすず書房発売日: 1998/07メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 12回この商品を含むブログ (26件) を見る背表紙に引き寄せられてふいに手に取り、ぱらりと捲って驚いた。飛び込んできた文字は「土屋文明記念文…

作家の文体 ~ 江國香織 「号泣する準備はできていた」

なんでもない日常。そして、そこにさす暗い影。今にも爆発しそう。でも、しない。いっそ爆発してしまえば気が楽なのに、しない。決壊ぎりぎりのダムのように。そんな日常は小説の中だけの絵空事じゃない。おそらく、誰の一日にも潜んでいること。普段目を背…

〔日記〕キーボードで打つ文章は薄っぺらい気がして、原稿用紙に手書きで書いてみる

高校で一人一台パソコンを使えるようになってから、文章を書くときはほとんどキーボードを使っていた。ブラインドタッチに馴れてしまえば、考える早さで文章が書けるのでとても楽になる。手が痛くなることもほとんどない。 だけれど、何かが足りない。それは…

〔小説〕 かつおだし

だしといえばまず顆粒のインスタントのものが思い浮かんでしまうのは悲しいことだ。あの細いスティック状の袋に入った、茶色い粉薬のような。実家でだしといえばそれを指した。銘柄に変遷はあったが、沸騰したお湯の中にサラサラと入れるタイプのものであっ…

恋の狂気 ~ 江國香織 「ウエハースの椅子」

母が突然庭に来る猫を「ゼツリン」と呼び始めた。何事かと思えば、江國香織の「ウエハースの椅子」に感化されたらしい。ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)作者: 江國香織出版社/メーカー: 角川春樹事務所発売日: 2004/05メディア: 文庫 クリック: 7回この商品を…

せかせかと五分を惜しんだところで何にもならない ~ よしもとばなな 「王国 その3 秘密の花園」

みんないつも前のめりで、五分先を生きている。 もしも、それが一年や十年先なら、きっとなにかの意味が出てくるのだろう。でも五分先だとただせわしないだけなのだ。みんな急いでいる、むだにエネルギーを使っている。*1 王国〈その3〉ひみつの花園作者: よ…

定職に就かない生き方 ~ 「ku:nel 花も見ごろ。」

私は老婆心で定職を持たないことに不安はないのかと訪ねてしまう。彼女は大きな目をこちらに向け、 「あったけれど、私はこれ(と刺繍をする手ぶり)をやっていけばいい、これをしている自分が自分、そう思えるようになって不安がなくなりました。その時間が…