醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

誰にでも、簡単に読めること ~ 夢枕獏 「陰陽師」

板前さんから借りた本。流行した頃には読まず、今頃になって縁が繋がった。映画化されたものを観ていたせいで、読んでいると俳優の顔が浮かんでくる。伊藤英明が演じた源博雅は、たおやかだったような気がする。だが、小説の博雅は無骨な武士だ。琵琶には精…

瀬戸際の魔術師

図書館司書資格の授業で、昨年書誌を作った。 テーマは身体変工である。それがユニークだと評価されて、専門誌上で紹介されることになった。司書の卵が作った書誌が並ぶ中に入れてもらえるらしい。なんとも嬉しい。ただ、雑誌の形態にあわせて、手直しをしな…

男の執念 ~ 永井荷風 「つゆのあとさき」

早稲田に古本屋は数あれど、五十嵐書店*1ほど立ち入るのに緊張を要する古本屋は無い。小汚い格好の一学生としては、「どうもこんなものが来店してしまって申し訳ありません」という気持ちで自動ドアを潜る。綺麗に整頓された本。ギャラリーのような展示。長…

男の孤独 ~ 佐野洋子 「がんばりません」

確かこの本は、浪人時代に読んだはずなのだ。でも、憶えていない。なぜか、解説のおすぎさんの文章だけを覚えている。やはり他のことで頭がいっぱいのときに、現実逃避のようにして本を読んでも駄目なのですね。がんばりません (新潮文庫)作者: 佐野洋子出版…

休みの日でも目覚めていたい

白河夜船 (新潮文庫)作者: 吉本ばなな出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2002/09/30メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (79件) を見る昼過ぎに目が覚める。休みの日でも、明るいうちに目が覚めるようになったのは仕事を始めてからだ…

満員電車に因る神経麻痺作用

恋人と中野へ。今年初めて蚊にさされる(しかもコナカ店内で)。学生街に住んでいると、ほとんど他の街へ行く必要が無い。スーパーはすぐそこにあるし、薬局も病院だってある。服はめったに買わないけれど、アジア雑貨の店があるのでだいたい足りてしまう。…

独りを慎まねば ~ 向田邦子 「男どき女どき」

向田さんが残した最後の小説と、エッセイをまじえた一冊。特にエッセイに、心に残るものが多い。例えば「独りを慎む」。 自由は、いいものです。 ひとりで暮らすのは、すばらしいものです。 でも、とても恐ろしい、目に見えない落とし穴がポッカリと口をあけ…

黒猫のワイン

花の金曜日。毎週七限(19:40〜21:10)にあった介護体験実習講義は早くも終了。金曜の授業はひとつだけになった。一年の頃の土曜日は、昼まで仕事があった。二年の頃の土曜日は、夜遅くまで授業があった。三年になった今年、ようやく金曜日の解放感を味わえ…

蚕豆を剥く

雨だと言うのにお店は大繁盛。ゴールデンウィークの後の静けさが嘘のよう。注文をとる、料理を出す、食器洗浄機と闘う。気温は低いけれど、ひたすら飛び回っているので汗をかく。食器洗浄機からもうもうと立ち昇る湯気にのぼせる。開店前の掃除から、ランチ…

新興宗教の渦に呑まれるこどもたち ~ 塩田明彦監督 「カナリア」

定まった宗教の無いこの国で、強く生きていくのは難しい。神でも仏でも、何か信じるものが欲しい。大きな力に守られている安心が欲しい。自分が自分であることを捨てたくなるとき、藁にもすがる思いで人はその門を潜るのかもしれない。それを頭ごなしに責め…

モンゴルが舞台の映画 「天空の草原のナンサ」を観る

「天空の草原のナンサ」はモンゴルが舞台の物語だ。第二外国語にモンゴル語を選んでいる私としては、見逃すわけにはいかないのだ。

シナリオの裏側 ~ 向田邦子「女の人差し指」

向田邦子さんの最後のエッセイ。彼女の死によって十四回で中断されてしまった連載の他、未刊行作品が収録されている。女の人差し指 (文春文庫 (277‐6))作者: 向田邦子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1985/07メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 7回この商…

酒飲みの話

恋人の誕生日に贈った日本酒をようやく開封。それまでまるでボトルキープのように、私の酒瓶と一緒にリボンをつけたまま並んでいた。酒の肴はごぼうと人参のきんぴら。せりの佃煮。きゃらぶき。二人とも底なしの酒好きなので、五合瓶が一時間足らずで空にな…

なんだかミュージカルみたい ~ 中野美代子 「西遊記【一】」

フジテレビのドラマ「西遊記」に影響され、原作を読んでみたくなった。『李卓吾先生批評西遊記』の全訳である岩波文庫版西遊記は、柔らかな語り口で書かれているのでとっつきやすい。絵本を読むような感覚で西遊記の全訳を味わえる。例えば、こんな訳。 「大…

謎のいきもの。 ~ 小川洋子 「ブラフマンの埋葬」

「僕」がともに暮らしたブラフマンとは、一体どんな動物だったのだろう。そして僕はどこの国の、いつの時代に生きているのだろう。ブラフマンの埋葬作者: 小川洋子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/04/13メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含む…

向田邦子展

銀座松坂屋へ向田邦子展を見に行く。銀座があまりに近いことに驚く。東村山に下宿していたときの感覚が残っている。銀座とは、一時間以上電車に揺られた先にあるものだと信じ込んでいた。メトロの切符は二〇〇円足らず。わずか十五分ほどで松坂屋に到着。平…

角田光代「空中庭園」

空中庭園作者: 角田光代出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2002/11メディア: 単行本 クリック: 12回この商品を含むブログ (84件) を見る先日観た映画の原作を読んでみる。映画のように大爆発はしないかわりに、終わったときの爽快感もない。じわじわじわじわ…

おんなのおしゃべり ~ 向田邦子「父の詫び状」

良いエッセイは時間を忘れさせる。小説のように引き込みはしないけれど、読者の時間にそっと寄り添う。紡ぎだされる子ども時代の話は私が生まれるよりずっと前のこと。それなのに、何故か懐かしい。そんな時代を私も生きていたような気にさせる。 (文春文庫)…

大型連休もさだまさし

さだまさし、NHKに再登場! 低コストぶりは健在、テロップはカレンダーの裏。元旦の「年の初めはさだまさし」で「誰も見てないから!」と言い切っていたまっさん。しかし前回ブログに取り上げたところ*1、多くの方からTBをいただけた。今日もみなさん、観て…

家族というホラー ~ 豊田利晃監督 「空中庭園」

空中庭園 通常版 [DVD]出版社/メーカー: ポニーキャニオン発売日: 2006/05/26メディア: DVD クリック: 55回この商品を含むブログ (240件) を見るのほほんとしたタイトルで安心させて置きながら、不意打ち。ゾンビも幽霊も出てこないが、立派なホラーだ。どん…

佐々部清監督 「カーテンコール」

カーテンコールメイキング 佐々部清監督と昭和ニッポンキネマ [DVD]出版社/メーカー: バップ発売日: 2005/08/24メディア: DVD クリック: 7回この商品を含むブログ (12件) を見る小さな映画館はいい。最新の映画はめったにやらないけれど、手軽な値段で二本立…

映画館はまだまだ修行の場

映画館は苦手なのだ。何が苦手かって、真暗になってしまうのが苦手なのだ。音が大きいのが苦手なのだ。近くにいる人が気になってしまうのが苦手なのだ。トイレに行きたいときに一旦停止ができないのが苦手なのだ。そんなもろもろが合わさって、具合が悪くな…

永遠のシュール

神楽坂。歩いても行くことのできるその街に、これまで訪れたことはなかった。そこは小説に出てくる舞台であり、歌詞に織り込まれた場所でもあり、現実離れした妖艶な街のように思っていた。新緑の日差しの下のその街は艶を闇に隠し、ただ明るくそこにあった…

ひとりぼっちという時間は存在しない

連休だというのに身体が重い。部屋の中を移動するのにも難儀する、と思ったら、やっぱり生理がきた。こんな日はごろごろしているに限る。図書館から借りてきた本がどっさりと、ビデオ屋さんからレンタルしてきたDVD。一人で過ごすときの予防線だ。いつから、…

卵のたたかい

シナリオ創作の授業をとっている。向田邦子作品がお手本、というところに惹かれた。しかし、シナリオなどどいうものはこのかた書いたことがない。お互いの創作をグループで批評しあうのだが、「ト書きが長過ぎです」「あなたのト書きはシナリオじゃなくて小…

おてんとさまの照るうちに

アルバイトをしているお店が祝日はお休みなので、つい生活のリズムが崩れてしまう。うっかりしていると夜更かしをしたまま朝日が昇る時間まで過ごしてしまい、夕方まで倒れるように寝入ったりしている。自分なりのルール。二十三時前にはお風呂に入って、早…

向田邦子の死に様 ~ 小林竜雄 「向田邦子 最後の炎」

向田邦子 最後の炎 (中公文庫)作者: 小林竜雄出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2000/10メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (2件) を見る向田邦子、乳がんの発症から台湾での飛行機事故による突然の死までの六年間を、彼女と関わりのあっ…

まつほの浦の夕なぎ

疲れが抜けずに、一日中布団に包まって過ごす。ただぼんやりと、窓の外の明かりが増し、そして薄れていくのを眺めながら、まどろむ。無作為な一日。何かを無駄にしているような気がする。でもこんな日が、忙しい毎日の活力になるのだと、言い聞かせるように…

〔映画〕変わりゆく日々のなかを電車は走り抜ける ~ 侯孝賢監督 「珈琲時光」

珈琲時光 [DVD]出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ発売日: 2005/03/29メディア: DVD購入: 6人 クリック: 85回この商品を含むブログ (180件) を見る都電荒川線、中央線、山手線、高崎線、上信電鉄。どれもこれも馴染み深い線ばかりで驚く。都電荒川線はすぐそ…