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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

昨日は午前中まで元気でどんどん配架をこなし、お昼に唐揚げ定食をぺろりと平らげたのに、午後になってデスクワークを始めたら急に寒気がしてきた。おかしいな、と思いながら上着を羽織る。次第に意識が朦朧としてきて、おまけに体中がぎしぎし軋むように痛い。帰るころにはまっすぐ背筋を伸ばして歩けなくなった。

これはいかん、急な発熱、インフルエンザか?
鎌倉美学にお休みをもらい、職場を出る。いつもは歩いて帰る30分の道のりを行く自信が無く、がたがた震えながらバスを待つ。駅についても、階段を上る気力がない。

大船駅ナカのコンコースがこれほど果てしなく思えたことはない。翳む視界の片隅に、イタリアンの食堂のカウンターに座る女の顔が見えた。40代の頃の母によく似ていた。歩きながら、ぼろぼろと涙をこぼす。

病院に着いて、体温計を借りる。38度3分あった。
インフルエンザの判定をするにはまだ早いから、明日朝も熱が下がらないようならまた来なさいね。そう言われて病院をでる。

熱を出して寝ていると、高校生の頃の下宿を思い出す。他人と一つ屋根の下に暮らすのは大変だ。おれは早く独り暮らしができる大人になりたかった。

今朝、まだ熱が下がらないので検査に行った。インフルエンザではなかった。まあ、でもしばらく仕事は休みなさい。三日経って良くならなかったらまたおいで。

昨夜は熱と痛みで全然眠れなかったので、日中力尽きたように炬燵で眠る。食欲はあるのでコンビニで買ってきた鯖の味噌煮の缶詰を頬張る。ようやく微熱になってきたので洗濯をする。

下宿していた頃も、こうして熱を出しながら洗濯をしていた。汗をかいてたくさん着替えるので、すぐに着る服がなくなるのだ。洗濯機を回していると、下宿のおねえさんに怒られた。動いていちゃだめじゃない、病院に連れて行ってあげるのだって大変なんだからね。ああそれなら、誰がおれの服を洗ってくれるというのか、と思いながら、こっそり洗濯をした。

いま、叱る人はいないので、暮れゆく空を見上げながら洗い物を干す。鳶が遠くに円を描いている。