「愛」
恋の寿命は三年だって云うけれど、三年ももった試しがない。長くて三ヶ月。それ以上続いてしまったら身がもたない。恋をすると、まずはまともに食事が摂れなくなる。常に吐き気がする程、胸が痛い。うわのそらになる。終わらない考えごとをぐるぐるとつづける。
恋に堕ちやすくて、醒めやすい。これはもう熱病のようなものだから、仕方がない。
恋に堕ちるのを自分に禁じていた頃があった。演歌よろしく、おれはひとりの男に操をたてようとしていたのだ。彼の恋人であった七年間、おれは出来るだけ地味な恰好をして、人に会わないようにしていた。大学生だったその頃が、いちばん実年齢よりも上に見られた。おれは彼が浮気をすることよりも何よりも、移ろいやすい自分の心が恐ろしかった。
恋は、やがて醒める。
一度寝ただけで勘違いに気づいてしまうこともあれば、じわじわと冷えていくこともある。
それでも、人と人はそう簡単には別れない。それは、慣れ親しんでしまった相手への依存か、他の性欲の対象を見つけることへの怠惰か。
そうしてずるずるとつづいていく関係を、これこそが愛だと自分に言い聞かせていた。
ほんとうは愛してなどいなかった。愛なんてそうそう手に入らないということを、認めるのが怖かっただけだ。
愛と云う呼び名の依存ごっこに、おれは疲れきっていた。寄り掛かるのをやめて独りの足で立ったとき、おれは始めて、終わりのない愛にぶつかった。
おれはもう自分に恋を禁じる必要もない。