ピアス
母の友人だった青年は、いつも両耳にじゃらじゃらとピアスをしていた。それ以上空けるところが無いくらいたくさん。軟骨の部分にも。
端から見たらただのちゃらちゃらした青年にしか見えないだろう。細身で、いつも黒い服を着ていた。でもその装いは、彼の御守りのようなものであることがおれにはわかった。彼はたぶん、そのピアスをつけていなくては日常生活を送れない。彼の目にはあまりにも多くのものが映り過ぎる。生きている人の念も、死んだ人の念も。
ただの金属に力があるのかどうか、おれにはわからない。ようは、自分の精神を切り替えられればいいのだ。ピアスをはめることで彼は、その強すぎる感覚を制御する。
二十歳になった夏、おれは自分の耳に穴を空けた。
振袖を着て写真を撮ることにおれは意味を見いだせない。血の滴る耳朶こそが、おれ自身の通過儀礼だ。さようなら、少女の夏。おれは女として街に新しい足跡をつける。ファーストピアスは赤い石のイミテーション。そう、誕生石ならルビーなの。