醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔書評〕「すぐやる」だけでは仕事は終わらない。~ マーク・フォスター『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則・完全版』(前編)

今の仕事には出社義務も決められた勤務時間もない。遠隔地で働くスタッフ同士は、Googleカレンダーを使ってお互いの予定を把握している。自身の業務管理も同様にGoogleカレンダーを使うよう勧められていたが、行動をあらかじめ決めておきたくないあまのじゃくの自分には、いまいち合わないような気がしていた。

スケジューリングが嫌いの自分が、仕事に終われないようにするにはどうしたらいいの? その答えは本書にあった。

これまで自分は、任せられたプロジェクトに対して工数を予測し、作業時間として割り振ってカレンダーに入力していく方法を取っていた。でもこれだと全然やる気が出ないのだ。その仕事をする時間になっても、つい他のことをして逃れようとしてしまう。

それなら、思い立ったときに「すぐやる」という方法は? これだと、細かい仕事はパッパと終わるが、大きな仕事にはなかなか手がつけられない。取り組みやすい仕事は片付いても、本当にやらなくてはいけないことが後回しになってしまう。

気がつけばTO DO管理のアプリには大量にタスクが溜まってしまい、見るのも嫌になる。嫌になって手をつけないから、さらにタスクは降り積もる。いったいどうしたらいい?

この「TO DOリスト」こそが、やる気を削ぐくせ者なのだ。すっかりタスクが完了したときの解放感は素晴らしいが、そんな解放感を味わえるときなんてめったに来ない。そう、これで終わりと決めない限り、終わる仕事なんて無いのだ。

永遠とタスクが追加されてしまう従来のTO DOリストを、本書では「オープン・リスト」と呼ぶ。一方で「マニャーナの法則」が推奨するのは「クローズ・リスト」だ。さて、このクローズ・リストとは、一体……?

すべての仕事は、「明日やる」が基本

どんなに綿密に予定を立てていても、その通りに仕事が進むなんていうことはほぼ無い。そして仕事というのは恐ろしいことに、突発的に発生する。そのたびにいちいち反応して、来た球を片っ端から打ち返していては破綻する。予定していた仕事が進まなくなってしまうからだ。それを避けるのが、「マニャーナの法則」なのである。

新しい仕事が降って来たとき、まずは落ち着いて下記の3つに分類をする。

  • 緊急レベル1 今すぐ
  • 緊急レベル2 今日中に
  • 緊急レベル3 明日やる

「子どもが熱を出したので迎えに行かなくてはいけない」という事態は、「今すぐ」対応しなければならない「緊急レベル1」だ。しかし、すべてのタスクが本当に緊急レベル1なのだろうか?

さて、深呼吸。

今新たに発生したその仕事は、本当は「今日中に」すれば問題無いことかもしれない。いや、「明日やる」のでも充分間に合うのではないだろうか?

すべての仕事を「明日やる」のカテゴリーに入れるのが理想だと著者は言う。「マニャーナ」とは、「明日」を意味するスペイン語だ。本書の原タイトルは『Do It Tomorrow And Other Secrets or Time Management』。そう、仕事の基本は「明日やることにする」こと。それは先送りとは違う。明日に回した仕事は、必ず明日にはやるのだ。

「すぐやる」仕事術だと、どうでもいい仕事ばかりが片付く

仕事には、こなしていくだけの「忙しいだけの仕事」と、人生をかけて本気で取り組まなくてはならない「本当の仕事」があると、本書では紹介される。「本当の仕事」は、自分にしかできない仕事、自分のビジョンに沿った大切な仕事だ。発生した仕事を「すぐやる」だけでは、「忙しいだけの仕事」ばかりが片付き、「本当の仕事」は後回しになってしまう。なるほど、これまで「すぐやる」仕事術でガシガシと働いていたけれど、疲れきるまで働いてもなんだか達成感が得られなかったのはそのせいだったのか。

「すぐやる」方法だけを採用すると、すべての仕事は「今すぐ」やるか「後で」するかに分類されてしまう。「後で」は、決してやってこない未来。一度後回しにした仕事を再開させるのは大変だ。だからマニャーナの法則では、「明日やる」もしくは「明日以降の特定の日にやる」と決める。「いつかやる」と思っていたことが、その日にやるべきタスクに変わる

TO DOリストでは、仕事は終わらない

TO DOリストは、永遠にタスクが追加される「オープン・リスト」。その反対の「クローズ・リスト」となるのが「WILL DOリスト」だ。このリストには制限(クローズ)があり、一度クローズしたら、基本的に新しいタスクは追加しない

一日一日で完結するWILL DOリストを、本書では「タスク・ダイアリー」と呼んでいる。これは紙の手帳でも、デジタルでもどちらでもいいそうだが、おれの場合は紙の手帳である「ほぼ日手帳」を使っている。

新しく仕事が発生したら、超緊急なもの以外は、明日か明日以降のページに記入する。一日の仕事を終えるときには明日のページのリストを確認し、タスクを整理したら線をひいてクローズする。明日やる仕事は、つまりこれだけ。その日のうちにできなかった仕事は明日に繰り越す。どうしても「今日中に」対処しなければいけない仕事が入ってきた場合は、クローズした線の下に記入する。こうすることで、自分がどれくらい突発事項に振り回されているかを見直すこともできる。

紙の手帳の利点のひとつは、書けるスペースが限られていることだ。自分のできる以上に詰め込み過ぎては、こなせなくなってしまう。もうひとつの利点は、手でいちいち書き写すので、繰り越しのタスクが増えているのを意識できること。何回も同じタスクを書き写すのは面倒だから、サクッとやっつけたいという意欲が湧く。

モチベーションを保つ秘訣は「仕事が予定通りに進む」こと

会議の予定など、あらかじめ時間がはっきりと決まっているものは、これまで通りGoogleカレンダーで管理している。ただしこちらも、あわせてタスク・ダイアリーにも書き込んでおく。予定が多い日は、こなせるタスクも少ない。無理して多くの仕事を入れないのが基本だ。ページの3分の2が埋まったら、それ以上は書き込まず、翌々日以降にまわす(もちろん、〆切との兼ね合いも気をつけながら)。できるだけバッファを持たせて、不足の事態を消化できるようにしておく。もし仕事が早く済んだなら、他の仕事を先取りもできるし、遊びに行くこともできる。

やる気を保つ秘訣は? それは、「仕事が予定通りに進んでいる」という実感だと本書は言う。そして大切なのは、本に書いてある通りのことだけをするのでなく、自分ならではのシステムを開発していくこと。マニャーナの法則を取り入れて、約5ヶ月。後編では、ちまちま変更を続けながら編み出した自分ならではのシステムをご紹介したい。