醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明 @mianohara

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔水族館劇場〕その時からすでに舞台は始まっている

 
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水族館劇場に裏方と役者の区別は無い。看板女優だって鉄パイプをかつぐ。公演1ヶ月前から、劇場を組み建てるために一部の役者は更地の現場に寝袋を持ち込んで泊まり込み始める(ヨコハマトリエンナーレの場合は、規模がかなり大きかったので建て込み生活は3ヶ月に及んでいる)。公演から撤収まで、ひとつ釜の飯を食い、雑魚寝をする。その時からすでに、舞台は始まっている。

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そりゃあ、アクの強い役者ぞろいだから、日々の暮らしが日常にはなろうはずもない。生活の些細なやりとりさえも、きっと本番の公演の中に滲み出ているのだろう。

新人のおれは踏み込み具合を模索し続ける。出過ぎては顰蹙を買うが、引っ込み過ぎては手持ち無沙汰だ。それにしたって、これまでずっと客席から眺めるばかりだった役者たちが、すぐ隣で普通に生きている。そのこと自体がすでに、夢かうつつかわからなくさせる。

おそるおそる、おれも本番数日前から寝袋を持ち込んでみる。仮説劇場のテントは殆ど野外だ。高速道路の高架を流れていく車も、建ち並ぶ呑み屋のネオンも、同じ空気の中にある。おれが好きなのは客席の最上段だ。夜風にさらされながら缶ビールをあける。車のライトや街の灯りが瞬くのを眺める。客席の下段からは、他の役者たちの微かな寝息が聞こえてくる。