D:更新のお知らせ-小説を書きました
結婚をしたいわけじゃなかった。 子供が欲しいわけでもないし。 子供を産むつもりがないなら、結婚って何のためにするんだろう? って思ってた。 好きな相手がいて、ときどき思い出したように会って性欲を充たす。 それでいいんじゃないかと思ってた。 でも…
手の届かない人が好きだ。決して振り向いてくれそうにない人。 坂井はそういう人だった。私なんて好きにならない人。追いかけても追いかけても手に入らない。
「久米川? 逆方向なのに、なんでまたわざわざ高田馬場まで」 あなたと話をしてみたかったんです、とは言えなかった。かわりに真っ赤になってしまったのに、坂井は気づいたかもしれない。
「こんな居酒屋でよかったんですか」 初めて二人で飲みに行った日、坂井はそう言った。高田馬場駅に近い、地下の店だった。学生客が多いのか、安くてボリュームの多いつまみが多い。 「私、こういうちょっと汚い店好きですよ」 そう答えて、日本酒をバイトの…
友達と会う約束をするのをいつしかやめてしまった。坂井は、いつも突然に連絡してくる。 『今から行く』 それが、今から何時間後なのかはさっぱりわからない。でも私は舞い上がってしまう。
別れ話をしに来たのだというのに、坂井を見つけるといつものクセで笑顔になってしまう。会えるときをいつも心待ちにしていた。高田馬場で高い部屋を借りたのは、坂井が気まぐれに寄り易いようにだった。自分では見ることのないブラウン管のテレビは、場所塞…
未完だった小説を書き直し始めました。 下記リンクから読めます。mianohara.goat.me
中学校において人気のある女子とは、明るくてスポーティーで、元気がよくてちょっといじわるでよく笑う、そういう女の子たちだ。そんなふうにはどうしたってなれない。
エブリスタに小説を投稿しました。 以前書いた作品ですが、エブリスタ×猫びより アニマル・ノベル・コンテスト2018年春「猫が登場する物語」に合わせてリメイクしました。 下記のリンクから読めます
noteで小説を更新しました。
以前、このブログに掲載していた小説をnoteへ移しました。写真は、FIND/47から探してきました。
noteを更新しました。noteでは、小説をメインに掲載しています。 公開当初は無料、ぼちぼち有料にしていくかも。よろしくお願いいたします。note.mu
その人たちはいつも静かで、白っぽい服を着ていた。思いやりに満ちている。それは美術館を拠点にしたコミュニティーで、そこに加わっている人は小さな子どもを連れた若い親たちが多かった。暗い美術館の中庭で、これから合唱を始めるかのように並び、それぞ…
震災の翌年。脳卒中で搬送された母は意識の戻らないまま集中治療室で二週間を過ごし、そして死んだ。亡くなる日の明け方に見た夢は、いつものように紺絣のもんぺをはき藍染のスカーフを頭に巻いた母が、まるで誰かの見舞いに来たかのようにすたすたと病院の…
豪快に酔っ払ってふらふら帰る道すがら、よろけて膝をついてしまって、わー恥ずかしいと思いながら家に辿り着く。ひとまず炬燵に潜り込んで眠る。深夜に目覚めたら、床や畳やソファーにぺとぺとと血の跡がついていた。今年買ったばかりのズボンは膝小僧が破…
なんとも百合な、官能的な夢を見て目覚める。しばらく布団の上に座ったままぼんやりとする。同衾している彼女は現実では知らない女で、ゆるいくせのある長い茶色がかった髪をひとつに結い上げている。彼女が懇願するので、その裸の身体をくまなく撫でてやる…
スーツを着るのが嫌になった。雨で湿気た真っ黒のリクルートスーツを脱ぎ捨てて、薄汚れたパーカーに着替える。靴下にサンダルをひっかけ、財布を片手に握りしめて「三日月」の扉を開ける。三日月は学生街の裏道にあるバーだ。蔦が絡まって殆ど廃屋同然のビ…
飼い主を拾ったのは冬の雨の夜だった。傘もささずにずぶ濡れで歩いていたから、手をひいて部屋に連れ込んだ。ぐしょぐしょに濡れて重たくなった背広を脱がせ、鴨居に掛ける。風呂をたてて布団を敷いた。湯からあがった飼い主にバスタオルを投げる。先に布団…
部屋に帰ると猫がシャワーを浴びていた。鍵を探しているあいだ、鼻歌が窓の向こうから聞こえていた。小さなアパートだから脱衣室なんてない。僅か四畳足らずの板の間が、玄関兼、台所兼脱衣場だ。床に無造作に投げ出されたバスタオル。僕は磨り硝子の扉の向…
夢。 おれが棲んでいた「実家」は、改装のため骨組みばかりしか残っていない。まるで木造の海の家みたいに。汚れた畳、吹き抜ける風。おれは友達の彼氏と付き合っていることになっている。彼は畳の上に座り、おれに「キスをしよう」という。「舌をいれていい…
「わたし、先輩がいたから吹奏楽部に入ったんです」佐々木瑞穂にそう言われたのは五月、演奏会に使う楽器を運び出していた音楽準備室だった。他の部員も顧問の教員もまだ来ていなかった。 「中学のときからずっと好きでした」瑞穂のことは、入部してくるまで…
霊柩車の助手席に乗って、病院を出る。 母の運転で数え切れないほど通った国道十八号線の高架。今母は物言わぬ物体になり荷台に積まれ、運転席にいるのは見知らぬ葬儀屋のドライバーだ。 行き交う車のヘッドライト。赤く光るテールランプ。暗く空に沈む観音…
酒場で独りで呑んでいる女はみんな声を掛けられるのを待っている…わけではないから、そう無粋に口説かないでくれ。 男の目に下心の宿るときは、どういうわけかみな、寄り目がちになる。凝視して服の下まで透視しようとしているのか。何故か誰もが同じ表情を…
なんて不覚。 最終電車に乗せられてしまった。 ホームで見送る彼。ドアの傍で手を振るか、さっさと空いてる席に座ってしまうか、迷ってしまうじゃないの。 東京は詳しくないから教えてほしい、とメールした。それじゃあ、お台場でも行ってみようかと返事が来…
五月某日 大学時代の友人久しぶりに逢う。お互い社会人だ。 「いちばんお金使うものってなに」という話になり、「酒」と即答するおれ。 五月某日 かつて自分がつけていたのと同じ香水の香とすれ違い、思わず振り向く。 ホームに電車が滑り込む。電車って、そ…
「せんせいはカレシいるの?」 教育実習に出向いた先で、中学二年の女の子に訊かれた。 「秘密」 「えー、っていうことは、いるんだ!」 「実習生はさ、そういうこと教えちゃいけないの」 「ふーん、めんどくさいね。……あのね、」 教室掃除用のほうきを握り…
「男はみんなオッパブに行くもんなんです。オッパブ、わかります?」 隣のテーブルでまだ若いサラリーマンが、ビールジョッキを片手にそんな話をしていた。 「うちの彼氏はそういうお店、行ったことないと思うけど」 これもまだ年若い女がそう答える。 「せ…
神社の脇にたつ栗の木は毎年五月になると見事な白い花をつけ、わたしはその下を歩くたびにかつて口に含んだ何人かの精液の匂いを思い出す。体臭はひとそれぞれ違うのに、どうしてあれだけは濃さの違いさえあれ、同じような味がするのだろう。つんと、喉を灼…
だしといえばまず顆粒のインスタントのものが思い浮かんでしまうのは悲しいことだ。あの細いスティック状の袋に入った、茶色い粉薬のような。実家でだしといえばそれを指した。銘柄に変遷はあったが、沸騰したお湯の中にサラサラと入れるタイプのものであっ…