醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

ネクタイだなんて

恋人が持ってきたエキナセアという薬を飲んだら、恐ろしいくらいに体調が回復した。ぐわんぐわんと言っていた頭痛も、イガイガしていた喉も、嘘みたいになんともない。二日間部屋に閉じこもりきりで、外の空気に飢えていたので、颯爽と飛び出す。

日差しは暖かいのに風が冷たい。二月にクローゼットの奥から引っ張り出した春の服は、すっかり出番を失ってしまった。早く新鮮な気持ちで春の服を着たいのに。冬の服はなんだか重苦しい。うずうずする。

いつもの喫茶店で、今日は久しぶりに昼食をとる。学生のお客がちらほら。春休み中は閑散としているのだけれど、そうか、今日は科目登録か。

事務所に、科目登録について相談に向かう。冷たい風に当たると、やはりまだ本調子がでない。しかめっ面で歩いていたら、前からスロープをダッシュで、スーツを着た学生が走ってきた。ご苦労なこって、と顔を見たら、入学したばかりのころにガイダンスで知り合ったN君だった。「ひさしぶりー!」と手を振りながら、ものすごい勢いで校舎の中へ駆け込んで行った。

初めて逢ったころは高校を卒業したばかりで、初々しい男の子だったのに。青いネクタイが様になっていた。置いてきぼりをくらったような気がして、ちょっとさみしい。

しかしあんなに急いでいたのに、笑って手を振ってくれたのでちょっとうれしい。