〔小説〕 そういうお店
「男はみんなオッパブに行くもんなんです。オッパブ、わかります?」
隣のテーブルでまだ若いサラリーマンが、ビールジョッキを片手にそんな話をしていた。
「うちの彼氏はそういうお店、行ったことないと思うけど」
これもまだ年若い女がそう答える。
「せんぱーい、そんなわけないじゃないですか。彼女がいたって奥さんがいたって行くもんなんです。それが男です。先輩の彼氏さんだって絶対行ったことあるはずです。誓ってもいいです」
そう言って男はドンっ、とジョッキをテーブルに置いた。
「えー、やだなぁ、そんなの」
「なに言ってんですか。二十六にもなってそんなにウブじゃあ、幸せな結婚生活なんておくれませんよ。性欲と愛は別だってわかってあげて、どっしりと構えていなきゃあ」
端で聞いている。正論かもしれないけど、と思う。男には性欲の処理が必要で、その為のお店が無数にある。浮気は男の甲斐性...か。
だけれど、お店で性欲を紛らわす自分たちを肯定する男は、女にもそういう欲求があることをきっと知らないのだ。女がお金で男にちやほやしてもらえる店は、男が行くそれより多くないから、きっとほとんどの女たちは危うい橋で性欲処理をしている。
そういう女たちを、男は肯定できるだろうか。
できないだろうね。
「コメリナ・コムニス」を出版しました。
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十七歳の想いは交錯する。