醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔小説〕 そういうお店

「男はみんなオッパブに行くもんなんです。オッパブ、わかります?」

隣のテーブルでまだ若いサラリーマンが、ビールジョッキを片手にそんな話をしていた。

「うちの彼氏はそういうお店、行ったことないと思うけど」

これもまだ年若い女がそう答える。

「せんぱーい、そんなわけないじゃないですか。彼女がいたって奥さんがいたって行くもんなんです。それが男です。先輩の彼氏さんだって絶対行ったことあるはずです。誓ってもいいです」

そう言って男はドンっ、とジョッキをテーブルに置いた。

「えー、やだなぁ、そんなの」

「なに言ってんですか。二十六にもなってそんなにウブじゃあ、幸せな結婚生活なんておくれませんよ。性欲と愛は別だってわかってあげて、どっしりと構えていなきゃあ」

端で聞いている。正論かもしれないけど、と思う。男には性欲の処理が必要で、その為のお店が無数にある。浮気は男の甲斐性...か。

だけれど、お店で性欲を紛らわす自分たちを肯定する男は、女にもそういう欲求があることをきっと知らないのだ。女がお金で男にちやほやしてもらえる店は、男が行くそれより多くないから、きっとほとんどの女たちは危うい橋で性欲処理をしている。

そういう女たちを、男は肯定できるだろうか。

できないだろうね。

 

 

コメリナ・コムニス」を出版しました。

 

コメリナ・コムニス

コメリナ・コムニス

 

 

「わたし、先輩がいたから吹奏楽部に入ったんです」

吹奏楽部の後輩、瑞穂(みずほ)からの突然の告白に戸惑う夏来(なつき)。

「夏来は、恋なんてしたことないんでしょう」

行き場のない恋を抱えて、放課後の校舎の屋上で煙草を喫む蓮美(はすみ)。

十七歳の想いは交錯する。