醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

絆?

震災のあと、みんなが絆、絆って言った。お金じゃなんにも当てになんない。せっかくマイホームを建ててみても、津波で流されちゃったらそれっきり。近所の原発が事故を起こしてしまったら、それっきり。

二〇一一年三月。鎌倉に越して来て一年と七ヶ月が経っていたけれど、おれにはまだ鎌倉に知り合いがちょっとしかいなかった。BUREの二人と、ふくやのふくちゃんと、常連のハリー、かなっぺ。美容室に行けば会うミネくん。ただそれだけ。

計画停電の日々には気が狂いそうだった。部屋は寒いし、暖房は電気がなくちゃつけられない。

いてもたってもいられなくてBUREへ行く。真っ暗な中、蝋燭をともして営業をしていた。マイ蝋燭を持って来ている人もいた。

おれは暗い中、温かいスープをすする。まだそのころは知り合っていなかったウッポンが隣のテーブルに友達を連れて大勢で来ていて、「よかったらどうぞ」と言って懐中電灯を貸してくれた。鎌倉のひとはなんて優しいんだろうと思った。

 

あれから二年が経つ。

絆、絆。

そう唱えるように、いろんなところへ出掛けて行って、たくさん知り合いをつくった。鎌倉じゅう、どこへ行っても友達に逢えるようになった。

 

だけれど、二年。

絆はだいじ、つながりはだいじ。

でも人間だから、どうしたって合わない人はいる。

合わない人とだって、つながりを持ちたいと思っていた。こんな非常時だから?

 

いや、そんなふうに綺麗にはいられないのだ。

 

母親が倒れて、そうして死んで、入院騒ぎやら葬儀やらでいろんな人間のどろどろを見ざるをえなかった。偽善は、やっぱりどこまでいっても偽善に過ぎない。

 

ばっさり断ち切らなくちゃやっていけない人間関係もある。

そんなとき、おれは最低だと言われようと、どこまでも非情になれる人間だ。義理人情なんていらない。

 

思えば、そうやっていくつもの人間関係を断ち切ってきた。おれは生涯憎まれるのだろう。

 

それでいい。そうやって生きていくのだ。