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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

香水

嘗て自分がつけていた香水の薫りと、駅の構内ですれ違う。Les Belles de Ricciの1番。青くさく甘ったるい匂い。十代にこそ似合う香りだ。少女はふわふわしたスカートを風になびかせ、ショッピングモールへ向かう人波に消えた。今は廃盤となったその香りを、彼女はどこで手にしたのだろう。

匂いの記憶。普段は全く忘れているのに、鼻孔をくすぐられた途端に不意に思い出す。鮮やかに。

SAMOURAIの匂いとすれ違うと思い出すのは、ある女友達だ。彼女のいいひとはいつも同じ匂いがした。SAMOURAIを漂わせた男が好みだったのか、彼女が男にそれをつけさせていたのか、わからないけれど。

日本人は体臭が薄い。だからこそ、鮮明に香水の印象だけが残る。

何の為に、香りをその身に纏うのか。

おれにとってそれは、スイッチのようなものだ。もしくは、鎧のようなものだ。外界に足を踏み出す為の。 首筋に一滴垂らす。馴染み過ぎてしまって、自分の鼻ではすでに嗅ぎ分けられなくなっているその香りを。

二十歳を過ぎてから、女物の香水を使うのをやめた。 甘ったるいフローラルの匂いがおれは苦手だ。わざとらしいシャボンの香りも。 男物の香水ばかりをつけていると、男にもてなくなるとなにかの雑誌で読んだ。そんなことは知らない。媚びる為に香りを纏う必要はない。