醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕知恵熱

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  • 忘れようとする
  • その顔の
  • 泣いてゐる(夢)
  • 山頭火

合宿2日目。ARGのVMSOを考える会議。社会とは何か、公共サービスとは何か。社長はまだ少し酔っ払っていた。宿泊組は3時まで呑んでいたらしい。

「かまかま」で昼飯。会議組とはここで解散。観光組は鶴岡八幡宮へ行く。源氏池の桜は満開だ。部長は今年何度目かのおみくじを引いていた。ようやく中吉が出たらしい。

日差しがとても熱い。重い荷物を抱え、汗だくになりながらミルクホールへ。今度は強烈に眠い。駅前で解散してから、すぐに家に帰って、ワインをなめてから仮眠を取る。

目が覚めると18時をまわっていた。すべてが青い、黄昏れ時だ。溜まっている仕事に不安を覚える。しかし新年度になってから考え続けてきた「人生において優先順位を高くすべきものはなにか」という迷いが、手を止めさせる。がむしゃらに仕事をこなすのではなく、例えば書いて生きていくのなら、書くことを最優先して、それに集中しないといけないのではないか。

目指す方向を指し示す羅針盤が欲しい。学生時代にそういえば『ソース』という本を読んだのを思い出した。Amazonで調べてみたら、Kindle Unlimitedの対象になっていたのでダウンロードする。

ソース~あなたの人生の源は、ワクワクすことにある。

ソース~あなたの人生の源は、ワクワクすことにある。

  優先順位はどこか無理があって、不自然です。 経営学や一般の成功哲学ではものごとに優先順位をつけるように教えますが、人間の基本的なニーズである自己実現という面ではマイナスの効果しかありません。
 優先順位の必要性を説く人たちは、自分にとって一番大事なことから順番に優先順位をつけ、リストの一番上から実践するようにと教えます。自分のニーズ、プロジェクト、欲望やワクワクに順番をつけろ、 というわけです。
 しかし、こういうやり方をすると、リストの最後まで実行する時間はまずありません。ところがたいていの場合、リストの最後にあるのが一番楽しいことであり、心を満たしてくれることなのです。

そんなことが書いてあったっけ、すっかり忘れていた。おれはいつしか、優先順位を決めることばかり気にしていた。何がもっとも重要かと優先順位をつける必要はないのだ。書くことも、ARGでの仕事も、ましてや歌うことも。やりたいと思うことすべてに、力を注いでいけばいいわけだ。

ようやく腑に落ちる。「ソースの車輪」を改めて書いてアプリに保存する。20時を過ぎていたので、もう仕事はせず呑みに出る。釈迦で日本酒一合、豚足、トマトのグラタン。寒気がしてきた。熱が出るのかもしれない。早々に引き上げる。

さけるチーズとスルメを買って帰る。ワインを少し飲む。村山由佳を読みながら、布団にくるまる。

死! 死を考へると、どきりとせずにはゐられない、生をあきらめ死をあきらめてゐないからだ、ほんたうの安心が出来てゐないからだ、何のための出離ぞ、何のための行脚ぞ、あゝ!

[種田山頭火 行乞記 (二) 一九三一(昭和六)年]

熱が出て、そして下がったみたいだ。パジャマが汗でぐっしょりと濡れている。これは知恵熱だろう。深夜に帰ってきたジロウに背中を揉んでもらう。

〔日記〕「自分にしか関心が無い」

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  • もう飲むまい
  • カタミの酒杯を
  • 撫でてゐる
  • 山頭火

ARGの合宿初日。午前中のうちに溜まっている仕事を片付けようと思っていたが、「この人生で自分はどこへ向かおうとしているのか」「もっとも優先順位を高くして取り込まなくてはいけないことは何か」を考え始めて手が止まる。ずっと昔に読んだ1日10分であらゆる問題がスッキリする「ひとり会議」の教科書 (Sanctuary books)なんて買ってみたりする。

世間師には、たゞ食べて寝るだけの人生しかない!

[種田山頭火 行乞記 (二) 一九三一(昭和六)年]

鎌倉駅でARGの皆と合流。なると屋+典座へ。滋味深い定食をいただく。

月の宿にチェックイン。「ARGで働くことの不安について」をお題に皆でぽつぽつと話す。iPadでメモをとる。

公共施設をつくるコンサルトして働くことの、まっとうなモチベーションを探していた。「海明ちゃんは自分のことにしか興味あらへんのに、公共の仕事なんてできるんかいな」そう言った友人の言葉がずっとひっかかっていた。確かにそうだ。おれは自分の内側にしか興味はなかった。

旅をしながら暮らし、地方の旨い酒と肴を味わう。そのこと他に高邁なモチベーションが欲しい。例えば、新しい施設ができることで、そのまちに住む人たちの人生がいくらか好転すること、だとか。それを心から願えないという自分の欠陥を他人に話すのは、特に同じ仕事を一緒にしている仲間に話すことは、素面ではとても勇気のいることだった。

「今はそれでいいんじゃないかな。その視点で仕事に携わっている野原さんがどんなものを書いていくのか、読んでみたいよ」そう肯定してもらう。なにかひとつ吹っ切れたような気がした。

普段の会議では話せない、胸に抱えている不安やモヤモヤ。いつもとは違う環境だからこそ、話せることなのかもしれない。それらひとつひとつをじっくりと聞き、アドバイスをしていく最年長の李さんは、まるでカウンセラーのようだった。このチームはまだ凸凹しているけれど、ようやくこの段階までやってきた。同じ船に乗り合わせた仲間として。

津久井へ。慌ただしくお好み焼きを焼く。笑い転げる。ビール2杯、日本酒一合。津久井玉、ショウガ玉、鶏の手羽先、鴨ネギ焼き、津久井やきそば。

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社長とヒグラシへ。ハジちゃんに紹介する。経営者同士、気が合うところがあったみたいだ。常温一合。社長を置いて、大船へ銭湯に行った組と合流。黄昏エレジーで日本酒一合。終電でバタバタと鎌倉へ戻る。