醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

編集は引き算の美学、電子は足し算の美学。都築響一×仲俣暁生×ミネシンゴ「本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー」に行って来ました〔後編〕

都築響一、仲俣暁生、ミネシンゴ。3人の編集者によるトークショー「本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー」イベント記録の後編です。

前編はこちら>>>アンチ東京の風潮がわかっていないのは東京のやつだけだ。都築響一×仲俣暁生×ミネシンゴ「本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー」に行って来ました〔前編〕

最近の都築響一さんの本は、本屋では売っていない。「今は電子が熱い」と都築さんは言う。電子と言ってもKindleではない。なんとその媒体は、USBメモリだ。

f:id:mia-nohara:20161029175031j:plain
これがUSBメモリ版『秘宝館』だっ!

編集は引き算の美学、電子は足し算の美学

なんでUSBメモリにしたのか? それは、一番安く届ける方法がこれだったから。今や安価で買える大容量のUSB。何かと制約のある紙の本と違って、さまざまな形式のデータを大量に詰め込める。高画像のまま収録されているから、印刷物とは違い、細部までアップしてじっくり見ることができる!

f:id:mia-nohara:20161029175044j:plain
(なんだかさらにいかがわしいですね)

USBに詰め込まれているのは、編集の前の「巨大な素材の塊」だ。「編集は引き算の美学」だと都築さんは言う。たとえばインタビューの記事は、ライターや編集者の目線で長時間の会話からその一部を切り取り、並び替えている。編集された記事は読みやすいし、内容も受け取りやすいものではあるけれど、編集の過程で大量にそぎ落とされてしまったものがあるのは事実。もしかすると、そっちのほうが重要な話だった可能性もある。

一方で「電子は足し算の美学」だ。音声や動画だって収録可能。インタビューも、音声や動画が提供されるなら、編集された記事はもはや、それら電子素材を補完する付録でしかないのかもしれない。

手売りができるUSBメモリの強み

USBなら、Kindleとは違って手売りができる。都築さんいわく、「自分の手で売るのがいちばん強い」。コアなファンが500人いれば、手売りだけで生きていけるそうだ。都築さんは有料メールマガジンも発行しているが、メルマガは広報手段。広報なら無料で提供してもいいのでは? と思うが、あえて有料にしているのは、自分にプレシャーをかけるため。読者が身銭を切ってくれていると思えば、手抜きな記事を書くことも、刊行が遅れることも許されない。

さて、質問タイム。かぶりつきの最前列でもあることですし、思い切って聞いてみた。
「これから自分のメディアをつくって食っていきたいと思っている人にアドバイスをください」

答えは、「アマチュアがプロに勝てるのは量だ」。とにかく量産すること。それをやめないこと。はい、心いたします。書いて書いて書きまくります。

f:id:mia-nohara:20170502111609j:plain
「本屋で売っていない本」をご本人から直接買って、サインもいただきました。感無量。

USB版『秘宝館』は下記のサイトからも買えるそうです。PDFのダウンロード版もあります。

www.roadsiders.com

なお、こちらが『秘宝館』全ページ超高速プレビューです。ええと、背後に注意して、そっとご覧になってくださいね。

youtu.be


本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー
2016年10月29日(土)17:00~18:30
文禄堂高円寺店イベントスペース
1,500円(1ドリンクオーダー制)

都築響一(編集者、写真家)
仲俣暁生(編集者、文筆家)
ミネシンゴ(編集者、『美容文藝誌 髪とアタシ』編集長)

peatix.com

アンチ東京の風潮がわかっていないのは東京のやつだけだ。都築響一×仲俣暁生×ミネシンゴ「本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー」に行って来ました〔前編〕

本が売れない時代だという。書店業界は必死だ。なんとかして本を売らねばと、「本屋大賞」なんてものも生み出されたりしている。いやもしかして、「本屋」という形態そのものが今の時代には合わなくなってきているのではないか? 私自身も、本屋で見つけた新刊をその場でググってKindle版で買うようになってきた(本屋さん、ごめんなさい)。本屋にお金を落とさなくなっている。

こんな時代でもしぶとく生き残る本屋は、その本屋にしかできないことを追い求める個性派書店だけかもしれない。そんな書店のひとつである文禄堂高円寺店で、「本屋<で売ってない本>大賞」という、なんだか逆説的なタイトルのトークイベントが開催された。

f:id:mia-nohara:20170501083038j:plain
早めに着いたらうっかり最前列になってしまった。


登壇者は、いつもお世話になっている編集者の中俣暁夫さん、逗子鎌倉の同志・編集者のミネシンゴくん、そして『秘宝館』などの写真集でお馴染みの都築響一さん。

アンチ東京の風潮がわかっていないのは東京のやつだけだ

さて、都築さんの代表作のひとつに、『TOKYO STYLE』がある。

上京した若者の部屋を撮り続けた写真集だ。何かを成そうと思ったら東京に出てこなければいけなかった時代の記録。いや、今だって都内の大学に進学したい学生は上京してくるけれど、わざわざ体ごと出てこなくても、インターネットで容易に世界へ発信できるようになった。東京がすべての中心だった時代は、そろそろ終焉を迎えようとしているのかもしれない。東京で新しいことを始めようとしたら、やたらとお金がかかる。消費経済が神様みたいな街だからだ。実は地方のほうが、新しいことを始めるハードルが低くなっているのかもしれない。お店を始めるにしても家賃も安い。東京に出てくるモチベーションは薄れつつある。

かつて、東京はごった煮みたいな面白い場所だった。でも今では、「東京ではない場所」のほうにこそ、面白いものが転がっていると都築さんは言う。今の都築さんの仕事は、地方へ出掛けて行って取材して、安いビジネスホテルで原稿を書くというスタイルになっているそうだ。読者の代わりに地方へ出向き、そこでしか見つけられないものを自らの視点で切り出すのだ。

(つづきは次回!)

後編はこちら>>>編集は引き算の美学、電子は足し算の美学。都築響一×仲俣暁生×ミネシンゴ「本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー」に行って来ました〔後編〕


本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー
2016年10月29日(土)17:00~18:30
文禄堂高円寺店イベントスペース
1,500円(1ドリンクオーダー制)

都築響一(編集者、写真家)
仲俣暁生(編集者、文筆家)
ミネシンゴ(編集者、『美容文藝誌 髪とアタシ』編集長)

peatix.com