醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

2006-01-01から1年間の記事一覧

よしもとばなな・奈良美智 「アルゼンチンババア」

単行本が初めて書店に並んだとき、私は「アルゼンチンバナナ」だとすっかりかんちがいしていました。「バナナ」と「ババア」。二文字違うだけなのにぜんぜん印象の違うタイトルだ……。アルゼンチンババア (幻冬舎文庫)作者: よしもとばなな出版社/メーカー: …

まぶいを落とす ~ よしもとばなな 「なんくるなく、ない ―沖縄(ちょっとだけ奄美)旅の日記ほか―」

なんくるなく、ない―沖縄(ちょっとだけ奄美)旅の日記ほか (新潮文庫)作者: よしもとばなな出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/03/28メディア: 文庫 クリック: 6回この商品を含むブログ (43件) を見るばななさんの眼で見た沖縄。そこには大和が忘れてきてし…

東陽一監督 「もう頬づえはつかない」

もう頬づえはつかない [DVD]出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント発売日: 2004/03/21メディア: DVD クリック: 18回この商品を含むブログ (6件) を見る見慣れた風景ばかり出てくる映画。親近感。それにしても、一九七九年当時の女子大生は、こんな…

孤独の飼い馴らし方

去年のちょうど今頃、盛岡で自動車の教習を受けていた。合宿中の滞在はビジネスホテル。ヒールでコツコツとロビーの床を鳴らす。ホテル暮らしはなんだか贅沢な気分だ。家族とも恋人とも友人とも離れ、一ヶ月弱を過ごしたイーハトーヴ、モーリオ。夜の盛岡繁…

吉本ばなな  「ハードボイルド/ハードラック」

ハードボイルド/ハードラック (幻冬舎文庫)作者: 吉本ばなな出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2001/08メディア: 文庫 クリック: 18回この商品を含むブログ (53件) を見るこの本は怖くて仕方なくて、いつも手にするのにひどく勇気が入る。そのくせ、いつもなぜ…

お金欲しい? ~ よしもとばなな 「海のふた」

海のふた (中公文庫)作者: よしもとばなな出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2006/06メディア: 文庫 クリック: 8回この商品を含むブログ (66件) を見る 私たちは、ただ、一日のことを一日分だけする暮らしがしたいだけなの。お金は大好きですけど、あり…

吉本ばなな  「N・P」

N・P (角川文庫)作者: 吉本ばなな出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1992/11メディア: 文庫 クリック: 8回この商品を含むブログ (62件) を見る 「夏好き?」 「死ぬほど好き。いつも夏のことばっかり考えてる。」 「恋ね。」 「咲は?」 「私は春が好き。で…

飲食店で働いてみたいと思ったきっかけは、吉本ばななの小説『虹』だった。

「虹」を読んだのは高校の頃だった。なんだか嫌にどろどろした小説だなぁという、手触りだけを覚えいて、ストーリーはすっかり忘れていた。ただぼんやり思い出せたのは、南国の青い海という舞台と、主人公がちょっと変わったレストランで働いていたというこ…

向田邦子 「霊長類ヒト科動物図鑑」

向田ファンならお馴染み、「う」の抽斗についての一節を含むエッセイ集。運命を感じさせる「ヒコーキ」もこの本に納められている。霊長類ヒト科動物図鑑 (文春文庫 (277‐5))作者: 向田邦子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1984/08メディア: 文庫購入: 1人 …

大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 7」

あさきゆめみし(7) (講談社漫画文庫)作者: 大和和紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001/07/31メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 11回この商品を含むブログ (9件) を見る当代一の貴公子と名高い薫と匂の宮に愛されながら、その苦悩は深まるばかり。誠実な…

大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 6」

臣下として最高の位に上り詰めた光源氏と、内親王である正妻、女三宮との間に生まれた子。この上ない身分、美貌に生まれつきながら、薫の心には晴れないものがある。自分を生んですぐに出家してしまった母。光源氏とは似ていないらしい己の顔。自分は一体誰…

日曜一考

中休みである。といっても梅雨のことではなくて、レポートのことだ。怒涛の一週間が過ぎ、次のレポート締切まで少しゆとりができた。こんなときにこそ少しずつ進めておくべきなのだが、一向にはかどらない。どうも私という人間は、お尻に火がつかないと行動…

二号さん ~ 向田邦子 「無名仮名人名簿」

先日、銀座松坂屋で開催されていていた向田邦子展を観てきた。「縦の会」に出てくる本妻、二号、三号の実物にお会いする。どきっとする名であるが、万年筆のことである。この三本の万年筆は文庫の表紙にもなっている。陰陽師の挿絵も描いていらっしゃる村上…

大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 5」

あさきゆめみし(5) (講談社漫画文庫)作者: 大和和紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001/07/31メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 6回この商品を含むブログ (8件) を見る絶世の美男子もやがて歳をとる。彼の中年の季節は、その栄光とは裏腹に、苦悩に満ちた…

磯村一路監督 「がんばっていきまっしょい」

もう何度も観たけれど、観るたびに美しい映像と音楽に惹き込まれる。がんばっていきまっしょい [DVD]出版社/メーカー: ポニーキャニオン発売日: 2005/03/02メディア: DVD購入: 1人 クリック: 21回この商品を含むブログ (63件) を見る物語は現代から始まり、…

向田邦子 「隣の女」

「おねがい。さっきの駅の名前、もう一度言って」 「上野。尾久。赤羽。浦和。大宮。宮原。上尾。桶川。北本。鴻巣。吹上。行田。熊谷。籠原。深谷」 サチ子は、耳たぶが熱くなり、息が苦しくなった。酔いが廻ってくるのが判った。 「岡部。本庄。神保原。新…

向田和子 「向田邦子の恋文」

ほんのわずかな手紙と日記。それだけで伝わってしまう。誰よりも近かった二人の距離。そして、あるかなきかの亀裂。恋人の書くラジオを聴き、書き留めるのを日課とした彼。忙しい仕事の合間、足繁く通いつめた彼女。そして彼が撮った、幾枚もの彼女のポート…

七月の決戦

七月。夏本番、より少し手前。一番好きな季節。これからやってくる夏の熱気が、一歩下がって控えている。夏休みはこれからなのだという、あの解き放たれた感覚。しかし大学生の七月というのは、なかなかにしんどい季節である。普段のんびりと生息している分…

許されぬ恋の終わり ~ 大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 3」

あさきゆめみし(3) (講談社漫画文庫)作者: 大和和紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001/07/31メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 6回この商品を含むブログ (14件) を見る文庫版はひとつの巻が厚く、印象的な場面が数限りなく収められているので、どこを取…

花散里の懐深さ ~ 大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 4」

あさきゆめみし(4) (講談社漫画文庫)作者: 大和和紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001/07/31メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 7回この商品を含むブログ (12件) を見る「源氏に登場する女の一人になれるとしたら、誰が良い?」 と聞かれたことがある。そ…

夢枕獏 「陰陽師 太極の巻」

清明と博雅。二人が酒を酌み交わす場面から、いつものように物語は始まる。はらはらとさせる妖怪退治の話もまた一興だが、どちらかといえば「棗坊主」のような話が好きだ。散る桜の花びら、果実の強い香。陰陽師 (太極ノ巻)作者: 夢枕獏出版社/メーカー: 文…

若いのね

月島へもんじゃを食べに行く。高校の仲間と、今年度二回目の飲み会だ。会を重ねるごとに、先輩よりも後輩の方が増えていく。今年から大学生になった後輩たちは、もう八期生なのだという。女の子同士の、可愛らしい会話。自分が十九だったころ、「若い若い」…

〔書評〕人生の重み ~ 小林竜雄 「向田邦子 恋のすべて」

向田邦子がかたくなに秘めてきた恋。生前の彼女を知る人達とのインタビューを通し、その断片が浮かび上がる。本当のところは彼女にしかわからないという余韻を残し、最後の恋がひっそりと語られる。向田邦子 恋のすべて作者: 小林竜雄出版社/メーカー: 中央…

空の青

ひとつ世界が広がるたびに、自分の小ささを知る。狭い世界に生きている。何でも出来ると思い込んでいた。一番でなければ気がすまなかった。狭い世界の中で、いつでも一番上に立っていたかった。井の中の蛙。井戸の狭さも知らずに、ただそこで、自分だけが大…

二十二歳の選択 ~ 向田邦子 「夜中の薔薇」

作者亡き後、最も早くに出版されたエッセイ集。「眠る盃 (講談社文庫)」の続編*1。夜中の薔薇 (講談社文庫)作者: 向田邦子出版社/メーカー: 講談社発売日: 1984/01/09メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 30回この商品を含むブログ (43件) を見る前半の短い部…

巣食う鬼 ~ 夢枕獏 「陰陽師 生成り姫」

「陰陽師―付喪神ノ巻 (文春文庫)」に収録されている短篇のひとつを長編化したもの。*1 「博雅よ。これは、五徳の姫だけではない。人は誰でも、時に、鬼になりたいと願うことがあるのだよ。誰でも皆、心には鬼を棲まわせているのだ」 「すると、清明よ、鬼は…

人ノ為ナラズ

惚れるが負け。惚れたものの弱み。ああ、なんとでも言ってくれ。今週も引き続き恋人の指導案を練っている。平日は大学の授業の後から終電前まで、週末は徹夜で。自分の課題を脇に追いやり、ひたすら彼の教材と睨みあっている。ある朝、寝不足の頭をぼぉっと…

古典の小悪魔、朧月夜の君。 ~ 大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 2」

読み出せばとまらぬ、源氏物語。千年もの時を越えても、人の情けとはこうまで変わらないものなのか。自らを戒めながらも怨霊に身をやつす六条の御息所の苦しみ、痛いほど。あさきゆめみし(2) (講談社漫画文庫)作者: 大和和紀出版社/メーカー: 講談社発売日: …

深夜の指導案

多忙な恋人を手伝って、教育実習の指導案を作っている。一番最後に日程が決まり、最年長である彼は、唯一ひとりの古文担当となった。現代文は現代文なりに大変なのだろうが、古文は文法も教えなくてはならず、調べものが増える。荷が重い。受験時代のあるか…

少女漫画で陶酔する古典 ~ 大和和紀 「あさきゆめみし 源氏物語 1」

源氏物語の翻訳は数あれど、わかりやすく読めるもの、とっつきやすいものと言えば大和和紀さんの「あさきゆめみし」である。ユーモラスな末摘花の帖は漫画ならではだ。あさきゆめみし(1) (講談社漫画文庫)作者: 大和和紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001…