辞書を読む ~ 向田邦子 「眠る盃」
画像だと見えづらいかもしれないのだけれど、この表紙の絵がなんとも素敵。棒人間ならぬ棒猫と、骨の魚が並んでいる。「夜中の薔薇」と並べるとなお良し。両方とも司修さんの絵だ。
- 作者: 向田邦子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1982/06/11
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- 作者: 向田邦子
- 出版社/メーカー: 講談社
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なるべく本は増やさないようにしている。しかし向田さんの本は手元に置いておきたくなる。書店の棚に隣り合わせて並んでいた二冊をまとめて購った。文庫は一冊ずつ買うよりも、何冊かまとめて買う方が気分がいい。ひどく贅沢をした気になる。
悲しくて、つい泣いてしまったとき、机の上の辞書を開いて、「涙」の頁を引いてみますと、
なみだ〔涙〕強い感動をこらえ切れない時に、主として人間の目から出る液体。
少しばかりおかしくなってきます。《中略》
ことのついでに、もう少し先を見ますと、
なみにく〔並肉〕(上肉・中肉などに対して)値段の安い肉のえんきょく表現。
なんていうのものっています。
では、涙をふいて、"えんきょく表現"を用いてお肉でも買いにいくか、ということになりましょう。*1
そう、国語辞典とはなかなか面白いものなのだ。引き始めるとついつい言葉の海に埋もれてしまう。「なみだ」のような簡単に思える言葉ほど、引いてみると面白い。笑ってしまう。
「無人島に一冊だけ持っていくとしたら?」という問が少し前に流行っていた。大切な小説は山とあり、とても一冊など選べない。一冊だけというなら、小説ではなく辞書を持っていこう。
角川書店の『類語国語辞典』が好きだ。五十音順でなく、関係のある言葉同士が隣り合っているので、ある頁は花の名前で埋まっていたり、ある頁は俗な言葉が散りばめられていたりする。擬音語の頁でにんまりしたり、お金に関するページでどろどろしたり。飽きない。「天文」という言葉に始まり、「宇宙船」で閉じられるのも、なんだか企みが感じられていいではないか。
- 作者: 大野晋,浜西正人
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1985/02
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さて、向田さんの話に戻ろう。
人は一生の間にどれくらいの本を読むものか知りませんが、どうも女は、自分の好みのごく狭い枠の中で、似たようなものを読んでいるように思います。たまには思い切って、全く別の世界のものにとりついてみたらどうでしょうか。*2
ううむ、まったくその通り。ついつい手に取るのは同じ作家さんの本、似たジャンルの本。異世界のものに手を出す好奇心を抱えていたいと思う。