何をやってる人ですか?
導かれるように鎌倉にやってきて、たくさんの人と出逢った。人と知り会うとき、おれはどんなふうに自分のことを伝えようかいつも思い悩んでしまう。
知人がこんなことを言っていた。「初めて会った人に『何をやってる人?』って聞くでしょう。その場合自分の職業を答えるのが一般的だと思うんですが、鎌倉の人は違うんですよね。『波乗りしてます』『歌をうたってます』。例えそれが現在収入につながっていないことでも、自分の趣味というか、生き甲斐を答えるんです」
それを聞いて、そうかおれも「物書きです」って答えればいいのだな、と思ったものの、実際に答えるとものすごく罪悪感がある。
おれ、全然書いてないじゃない。
中島敦の「山月記」が好きだ。文筆で名を挙げたい主人公。しかし自分の才能の無さ自覚するのが恐くて、結局何も成せないうちに発狂して虎になってしまう。おれにとって戒めの物語だ。
書きたいくせに、書くことは恐ろしい。このままでは何も書けずに歳ばかりとってしまう!と焦って原稿用紙に向かっても、自分の紡ぎ出す物語がどうしようもなくつまらないものに思えてきて途中で放り出してしまう。
そもそも、何でおれは書き始めたんだっけ。そうだあれは小学校の頃、ひまつぶしに描いていたマンガを友達が面白がってくれて皆で読んでくれたのだっけ。高校になってからは同級生だけじゃなくて、先生たちもおれの書くものを待っていてくれた。楽しみにしていてくれる人がいるのは本当に励みになる。だけれど、「なんだ、こんなものしか書けないのか」と思われるのが恐ろしい。
つまらないと言われようと、文才無いよねと思われようと、黙々と書き続けることが才能なのかもしれない。なにはともあれ、もう一度書き始めることにしました。書き続けることにしました。
おれ、物書きです。