〔おすすめ漫画〕岡野玲子『陰陽師』
目 その光鬼を縛り魔を裂く。
口 赤くつややかにて毒をはく舌を隠す。
女 美姫を好み多く妖かしを従える。
友 実直にしてあつい心を持つ楽のものあり。彼ひとりに心許す。 *1
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平安の闇を従え、怨霊たちあしらう陰陽師。その名は安倍晴明。父は大膳大夫の安倍益材だが、母は「葛の葉」という名の狐だともっぱらの噂。幼くして、陰陽道の師匠である賀茂忠行をも驚かす程優れた才気を持ち、常人には感じ取ることすらできない百鬼夜行をその目にした。
成人した彼は飄々と、力を試そうとする貴族をからかって遊ぶ。涼やかな面立ちは、どうやら女だけではなく男すら惹きつけてしまうらしい......。敵の多い彼の唯一の友は、醍醐天皇の孫・源博雅。清明よりも随分と位の高い殿上人なのだろうけれど、お茶目で無骨な博雅くんはいつも清明にからかわれてばかりだ。楽を得意とし、琵琶や笛の腕前は右に出る者無し。だけれど和歌や漢詩はからっきしだめ。現代ならとてもモテそうな彫りの深い顔は、平安の女たちにはゴツゴツに見えてしまって不評なようである。
都に妖かしが現れるといつも清明のところに相談に来る博雅。真剣に相談にくるのだけれど、なぜか清明と酒盛りになってしまう。......季節折々の肴が美味しそうだ。
原作は夢枕獏『陰陽師』。原作が好きな人でも、まったくがっかりさせないこの画の凄さ。原作そのままの漫画になんてめったにお目にかかれない。原作者もあとがきで大絶賛だ。
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原作のストーリーに忠実な初期の作品から、物語が進むにつれ岡野玲子色が強くなっていく。巻末の附属資料を見ればその時代考証の細かさに唸らされるばかり。平安の都に隠された数学に基づく呪、緻密に計算された卜占の占文、受け継がれゆく祭事の詳細。彼らの身につけている服がこれまた。ボタン代わりのノットで襟元を留める仕組みになっているようだけれど、清明は改まったとき以外はくつろいで外しっぱなし。シャツのボタンを余計にあけている小粋な高校生みたいだ。
妖しが出て、博雅が相談に来て、二人で出かけていって退治する、という典型のパターンはどんどんと展開していき、いつのまにか背景には違う時代がちらりほらりと現れては消える。アレクサンドリア図書館、エジプトのトゥト・アンク・アメン。気を抜いていてはついていけなくなる。なのでこの漫画を読むときは、最初に気合いをいれなくては。まるで深い海に飲込まれるように、遠いところへ連れて行かれてしまうから。
13巻はかなりエジプトの場面が多くなる。山岸凉子の『ツタンカーメン』を読んでおいてよかったぁ、なんて思う。(http://d.hatena.ne.jp/mia-nohara/20110227/1298774124 参照。)そうだ、同じく山岸凉子作品『日出処の天子』はなんとなく近いものがあるなぁ。霊力を持つ厩戸王子と、ほんわかした蘇我毛人の組み合わせとか。(http://d.hatena.ne.jp/mia-nohara/20100924/1285338597)
人並みはずれた才を持つ、清明の孤独。どんなにからかわれても清明を放っておけない、博雅の不器用なハート。二人の掛け合いには真剣な場面であってもちょっと吹き出してしまう。さて、今宵も平安時代にタイムスリップだ。
談
以前にもこのブログで『陰陽師』を紹介しましたが、今回はリメイクです。当時は難し過ぎてわからなかった漫画だったけれど、山岸凉子さんの作品を読んでからだと馴染みやすいということが判明。この本たちを教えてくださった料理人さんはお元気でしょうか。それにしても、2巻から登場の真葛ちゃんが私に似ている、と言う人が多くて、ちょっと嬉しい。
*1:第1巻巻末より