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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

SFであることをいつのまにか忘れさせる、ひりひりと胸を焼く漫画作品 〜 市川春子「25時のバカンス」「宝石の国(1)」

書評

市川春子の漫画が好きだ。SFなのだけれど、どれもやけに現実の手触りがする。SFであることをつい忘れて、その世界の中に浸ってしまう。

最初に出逢ったのは「25時のバカンス」だった。

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

株式会社空知製薬、北研究所。生物資源開発課深海生物圏研究室は、九月末で閉鎖される予定だ。主人公は副室長の西乙女(にし・おとめ)。研究室の解散騒ぎで一日も休んでいないのがばれてしまい、有給を取って無人保養所を借り、ついでに弟の成人を祝うことにした。弟はカメラマン。趣味で変な生物の写真をコレクションしている。乙女は、撮って欲しいものがある、と弟を呼び出した。

「それより撮ってほしいやつって まさか深海とか言わないよな? 昼? 夜? 準備あるんだ」
「ごく浅い海に25時だ」


ここまではごくふつうの、姉弟のやりとり。このあと弟と読者は、とんでもない世界に引き込まれることになる。


最新作「宝石の国」は、もっとエキセントリック。

宝石の国(1)

宝石の国(1)

この国は7度
「6度」
あっ 6度流星が訪れ
6度欠けて6個の月を産み やせ衰え
陸がひとつの浜辺しかなくなったとき
すべての生物は 海へ逃げ
貧しい浜辺には不毛な環境に適した生物が現れた

月がまだひとつだった頃繁栄した生物のうち
逃げ遅れ海に沈んだものが
海底に棲まう微小な生物に食われ
無機物に生まれ変わり
長い時をかけ規則的に配列し結晶となり
再び浜辺に打ち上げられた
それがっ 我々である

登場人物...といおうか鉱物とおうか、彼ら(彼女ら?)にはそれぞれ宝石の名前がついている。髪はそれぞれその宝石の特質を映し、澄んで輝いている。

私たちの中には私たちを創ったとされる微小生物が
内包物(インクルージョン)として閉じ込められており
現在は光を食べ 私たちを動かしてくれています
彼らは私たちが砕け散ってもある程度集まりさえすれば
傷口をつなぎ生き返らせるのです
...たとえ粉になり土に紛れ海に沈もうとも仮死に過ぎない

度胸ばっかりでかい癖に脆くて崩れやすいフォスフォフィライト。

毒液を発する性質のせいで皆から疎まれ夜の見張りを任されているシンシャ。

同じダイヤ属のボルツに嫉妬する、心優しいダイヤモンド。

彼らを束ねる僧形の金剛先生。

この星には、彼らを装飾品にする為に、度々「月人」たちが攻め込んでくる。


市川春子最新作、『宝石の国』1巻発売記念フルアニメーションPV - YouTube

どうやらみな鉱物なので、性別というものはあまり関係ないらしい。キュートなお尻にセクシーな脚、平坦な胸。僕と言ったり俺といったりするけれど、語尾は「〜だわ」と言ったりして可愛らしい。嫉妬と愛と恋が漂う。

たくさんキャラクターが出て来るので、自分好みのひとりを見つけたくなる。

毒を発する為に夜に閉じ込められ、独り海辺を彷徨い歩く、強いくせにすぐ頬を赤らめるシンシャがとりわけ好き。(文:野原海明)

宝石の国(1) (アフタヌーンKC)

宝石の国(1) (アフタヌーンKC)

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)