「ミュージアムITセミナー 2017 in 東京」に行ってきました。(後編)
筑波大学東京キャンパスで開催された「ミュージアムITセミナー 2017 in 東京」に行ってきました。2コマ目の三次元計測について。
前編はこちら。
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ミュージアムにとっての3D計測データ(大手前大学史学研究所 研究員 岡本篤志)
1996年当時の三次元計測器は、主に自動車メーカーで使われていたのだそうだ。車の金型やデザインにための活用であり、文化財についてはまだ導入されていなかった。岡本氏の所属する大手前大学史学研究所では、2003年オープン・リサーチ・センターを開設し、文化財を計測するための計測装置の開発を始めた。
文化財にもいろいろな種類がある。土器や建物など……それぞれの用途に合わせて計測器を用意している。仏像の計測にはハンディが便利。建物などの場合、最近ではドローンを用いて撮影することもある。最終的には水中の計測もできればと考えている。
海外の事例
スミソニアン博物館では、3Dデータをダウンロードもできる! インターネットのブラウザで閲覧可能。
3次元計測をもとにツタンカーメンのミイラのレプリカを作成するというプロジェクトもあった。ナショナルジオグラフィックらが資金を提供した大プロジェクトだ。計測したデータをもとに、液体樹脂を使った3Dプリンターで、棺の中にあるミイラそのもののレプリカが完成した。
岡本氏の取り組み
鳥取県立博物館
三佛寺蔵王権現立像のレプリカを作製した。計測は2日間。日中は参拝者がいるので夜間に行う。像そのものから直接型を取るのはやめてほしいという要望だった。使用した樹脂には、修復にも使われる彫刻刀で加工できるものを使用。職人技で彩色され、現在も博物館で展示されている。住職も本物と見紛う出来となった。日本で初めて大型文化財のレプリカを計測によって作成した事例だったが、残念ながらあまり話題にならなかったそうだ。
栃木県立博物館
拓本の石のレプリカを作成した。まずは計測ができるかどうかの試験を行う。どのくらいの時間がかかるのか、そもそも計測は可能なのかどうか、同じ素材で作られたレプリカを活用してテストする。その後、現地に赴いて実際に計測する。レプリカにすることで、拓本の崩れてしまった文字が解読できるようになった。
松が峰教会
建物の場合は外観だけを計測することが多いが、今後図面化するために内部情報も計測した。これをCADデータにつなげていく。CGで見ることができるようになったので壁の厚みもわかる。計測は2日間で完了した。
栗東歴史民俗博物館
「旧中島家住宅」という古民家の3次元計測し、CAD化を目指した。現存しているかまどの記録を取り、実際に使えるかまどに作り変えるところまでを含めたプロジェクトだ。計測は半日で完了。データはBIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング)でも使えるので、今後、解体修理をした際の水漏れや、虫害もCADデータに反映できるようになるかもしれない。
かまどは写真計測をした。使用する機材はデジタルカメラだ。かつての考古学では立体の実測が大変だったが、外形などをトレースするのはこの技術によって楽になった。かまどのシミュレーションCGも作る。それを左官屋さんにも見てもらって、復元する位置を決めていった。現在のかまどの体積を参考に、再利用できる土の量も決めていく。かまどというのは、台所の床よりも天板が高い位置にないと縁起が悪いらしい。最初のかまどは土が足らなかったため、その高さに達していなかった。
土作りには地元の小学生たちが参加した。土も作り過ぎててしまうと産業廃棄物になってしまうので、ここでも計測の力が役に立っている。完成後は小学校の課外授業としてお湯を沸かしてみたり、月に一回食事会をする体験学習が行われている。炊飯器の開発研究者が実験にやってくることもあるのだそうだ。
三次元計測を導入するにあたって
導入することの障害として……
- ノウハウがない。
- 機材の購入費、運用費が捻出できない。
- 専従者を置くことができない。
- データをどう保管したらいいのかわからない。
計測器の費用目安として……
- コンシューマー向けは、2、3万円~50万円くらい。ピンきり。
- 工業用用途のものは2千万円~3千万円!
- 高性能なデジタルカメラで写真計測もできる。ソフトだけなら50万円くらい。
- クラウドシステムを用いると年間5万円前後のライセンス料で導入できる。
コンシュマー向けの計測器としては、「ネクストエンジン」を使っているところが多い。海外の発掘調査に使われている。40万円くらい。
写真計測なら「SfM写真計測」。デジタル一眼レフが12万円くらいで、その他にソフトが必要となる。レーザーによる計測に比べると精度は落ちる。
岡本氏のおすすめはクラウドシステム。処理用のPCが不要になる。ただし、微調整ができないこともある。また、ネットに繋がないと処理できないので僻地では利用できない。データそのものを編集したい場合は別途ソフトが必要になる。
クラウドシステムの一例としては、「AUTODESK RECAP360」がある。
最後に
安価な機材やクラウドシステムの登場で、三次元計測は安価にできるようになってきた。Googleではすでに、距離センサーがついているスマートフォンを開発済み。デトロイト美術館で導入される予定だ。
https://www.youtube.com/watch?v=pmXVMIRwuJQwww.youtube.com
今年の秋には、ハンディサイズの計測器(150万円)が販売されるらしい。手の届かない最新技術だったものが、身近になる日もすぐそこに迫っている。
3コマ目の三井氏と、4コマ目の内田氏のリポートは、力尽きたため申し訳ないが要点のみで。
ミュージアムと写真(東京都写真美術館 三井圭司)
いくらデジタル技術が進んでいても、ハードディスクやCDに保存したデータは、何かがあれば一瞬で消えてしまう。クラウドに保存していても、どこかよそのハードディスクに保存されているのに過ぎない。自館の取り組みで記録写真を撮ったなら、デジタルデータだけで安心しないで、必ずプリントすること。インクジェットだと、水に弱かったり経年劣化しやすかったりするので、レーザープリンタがあればそちらで。紙になっていれば、東日本大震災のようなことが起きても後世に残せる可能性が上がる。