醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕帰還

九月の記憶があまり無い。この丗によく似た夢の中に身を浸していたからだろう。炎天下の建て込み作業が終わり、本公演が終わり、秋が来ていることにも気がつかないまま、いつもの仕事に戻る。たまりにたまった仕事を掘り起こしながら、魂はふわふわとあちら側に抜け出ているような日々が二週間続いた。ようやく家事をする余裕も出てきて、ヘルメットやら雨合羽やら台本やらで散らかった部屋が少しは見られるようになってきた。受信トレイにため込んだ未処理のタスクを片っ端から片付ける。地平線が見えてきたときのすがすがしさといったら。そういったゲーム性を求めて、おれはこの仕事をしているのかもしれない。

朝から関内のオフィスで打合せ、細々とした作業。夜、懐かしい街に繰り出す。こんなに近いのに、もはや懐かしいのだ。

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舞台から降りてきた役者たちと並んで歩くのはまだ緊張する。ずっと、手の届かないところにいた人たちだったから。

昼も夜も寝てばかり、それでも食べることは一人前以上だ、驚くべき食慾であり、大きすぎる胃の腑である、もつとも私たちのやうなルンペン乃至ルンペン生活をやつてきた人間が、食慾を失ひ、そして食べるものを食べなくなれば、もうお陀仏である、彼等(私たちとはいひきれないから)は食べることが即ち生きることだから。――

種田山頭火 其中日記 (一)

酒では酔わなかったが、とても飽和している。珍しくコンビニで何も買わないで帰る。世間はプレミアムフライデーとやらだったらしい。ぐでんぐでんに酔っ払った、ハロウィン帰りの陽気な人たちであふれる電車で帰還する。