金で買えない女はいない……が、しかし。 ~ 瀬戸内寂聴 『色徳』
瀬戸内寂聴がまだ晴美だった時代に執筆された『色徳』(新潮文庫, 1977.12, 上下巻)。物語は主人公の葬儀の場面から始まる。
- 作者: 瀬戸内晴美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1977/12/01
- メディア: 文庫
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六歳で女を知り、以来千人斬りと称されるほど数多くの女と渡り合った鮫島六右衛門。まるで昭和の源氏物語のようなこの小説は、実在する人物をモデルにして描かれたそうだ。年老いた六右衛門を中心に、回想場面を孕んで展開していく。
幼いころ初めて関係を持った女中に始まり、祇園や大阪の芸者との恋など……。作中に登場するだけでも、六右衛門と関係した女性は両手の指の数よりも多し。恐るべし。
どの女性にもそれぞれ違う魅力があり、華がある。最初はお金で身体を売ったり、好奇心で寝てみただけであったりするけれど、次第に本気で六右衛門を想う。六右衛門だっていつも遊びで関係する訳ではないのだけれど、女たちはいつも六右衛門を憐れむような顔をして去っていく。
七十を過ぎた六右衛門の現在。若き日に恋焦がれた女性はみな彼岸へ旅立つか、老いぼれた婆さんになり、年若い娘たちは次々に他の男のもとへ嫁入りしていく。千人の女と寝て、その中には本気で好きになった女も少なくない。だけれど、心の底から愛したと言える女は果たしているだろうか。
「この世は金や。金がすべてや。」そう思って生きてきた。女は金で買える。金を積めば女は愛してくれる。幸せだって金さえあれば手に入る。
しかし年老いた今、なぜか空しい。六右衛門の言うことを聞き、赤坂で芸者になって大金持ちと結婚して、貧乏暮らしから一転、金に不自由のない暮らしを手に入れた女もいる。欲しいものは何でも手に入る暮らし。だけれどその女もふとこぼす。「お金って、そんなに必要なものなの?」
心の底から欲しいと思っているものは、本当はお金じゃ手に入らない。人生も夕暮に差し掛かって、ようやく六右衛門も気づき始めた。自分が本当に欲しかったもの。だとしたら、人生って何なのだろう。七十年の果てにやっと気づくなんて。