福島へ
フロントガラスから差し込む日差しが、痛いくらいに腕を焼く。それなのに空には鰯雲が泳いでいる。下ばかり向いて歩いていたようだ。高速にのると空がひらける。ようやく秋の気配に気がついた。夏と秋の境目を見落としてしまうところだった。
対岸を埋め尽くすビル郡。無機質な風景が流れ去っていき、やがて前方から青田が押し寄せる。いよいよ空は青く大きく拡がり、そうかと思うと突然巨大な山に遮られる。高速を走ること数時間。福島は思うよりも近い。
一日目
東京 ― 二本松
福島の山里は、高校時代を過ごした村によく似ている。故郷へ帰ったかのような安堵。わずかな滞在なのに、土地の空気が身体に浸み込んでくる。
恋人との旅は風まかせだ。直前になって行き先が決まる。喜多方へはラーメンを食べる為だけに向かった。本場の喜多方ラーメンはきちんとだしの味がする。
二度目の、恋人との旅。歳の離れた恋人はすっかり私の保護者になる。その腕にすがって、どこまでも行けそうな気がする。このまま、東京になんて帰らずに、二人で、どこまでも。