〔日記〕 戦場へ赴く人
- 誰もが
- 忙しがつてる
- 寒月があつた
- 山頭火
十二月廿九日 晴、紺屋町から春日駅へ、小春日和の温かさ。
種田山頭火 行乞記 三八九日記
ルンペンは一夜の契約だが、今の私は来年の十五日までは、こゝにゐることが出来る、米と炭と数の子と水仙と白足袋とを買つたら、それこそおめでたいお正月だ!(餅はすでに貰つた。酒も貰へるかも知れない、乞食根性をだすなよ)
夢のなかでは戦争が始まっていて、戦地となった公園には若者たちがそれを止めようとして集ってきているのだ。おれは別にその列に加わる気もなく、ただ戦地を見に行くために通う。もう亡いはずの母親が、そうやって毎日戦地をぶらぶらとするおれを非難する。草むらは平和な時と変わらず、ふわふわと温かく湿っている。ズボンが濡れるのも構わず、おれはそこに腰を降ろして爆撃や噴水のように飛び散る血を眺めている。
グラスの底の樋口一葉は、龍之介に少し似ていると思う。金に縁のなかった女が五千円札を飾る。
「おれもいつか、札の顔になろうと思うよ。紫式部みたいに、二千年後かもしれないけど」
そう言ったら男は、「せいぜい頑張りなさい」と笑った。