〔日記〕海の恐さを知らない
洗濯物を干していると、工事の人たちと目線の高さが同じになってとても恥ずかしい。
道行く人は、特に敬語でも丁寧語でもなく、交通整理のおにいさんに「通っていい?」「道直してるの?」とか、子供みたいに率直に聞いていく。面白い。
小学生の群れが走って行く。
そうか、もう春休みになるんだね。
図書館へ。
歩道橋の日陰にいつも花がたくさん植えられているのだけれど、その中からぴょんぴょんとペンペン草が頭を出している。いわゆる雑草ではあるけれど、丁寧に植えられた花壇の花たちよりも、その辺でしぶとく咲いている野山の花のほうが好きだ。
そういえばこの前ヒグラシで、出身の話になった。
十代の頃は山岳ガイドのバイトをしていて、それで食べていくつもりでいた。
調査や研究よりも、野に咲く花の名前の由来や生態を語るほうが好きだった。
まだ「山ガール」なんていう言葉が流行る前のこと。
結局、海無し県の山の中で生まれ育った私は、山よりも海に憧れて鎌倉にやってきた。
海は好きだけれど、海の恐さを私は知らない。
山のことならちょっとはわかる。
この茂みにはマムシがいそう、だとか、この藪では音を立てないと熊に遭遇するかもしれない、とか、うかつに肌を出しているとヒルに吸いつかれるポイントだとか。
でも、海のそういう危険はよくわからない。
海で生まれ育ったジロウは、海の恐さを知っている。
海流の変わる場所だとか、潮の満ち干の影響だとか、毒のある生き物だとか。
本を借りて、御成スタバへ行く。
資料としては、ちょっと期待外れのものが多い。
今日は図書館が遅くまでやっている日だ。
16時頃、新しく予約の本が届いたというメールが来た。
ちょっと小説を書いてから、もう一回図書館に寄ることにする。
対面カウンターに何度も立ち寄るのは恥ずかしい。
自動予約受け取り棚のある図書館が羨ましい。
しかしカウンターで、ひとことふたこと誰かと話をしたい、という需要があるのもわかる。
貸出冊数にあと2冊ゆとりがあったので漫画を借りる。
なんとなく退屈な感じ。
日々に飽きてきたというか。
何か新しいことをやってみるといいのだろうか。
スーパーで買い物。
今日は5%割引券の使える日だ。
新しい財布、最初は小銭をばらまきそうで恐る恐る使っていたが、ようやく慣れてきたら快適で、財布を開くのが楽しくなってきたのだ。
ササッととぴったりの額の小銭を出す、とか、とても気持ちいいじゃない。
得意げに割引券を取り出す。
「あら、もう割引処理したから、必要ないわよぉ」
と、小さい子供をさとすようにレジのおばさまに言われる。
予想外の展開に動揺して小銭を取り出すのに苦戦し、悔しいけれどお札で払う。
お釣りを渡すとき、おばさまの手がピタリと止まった。
じーっとレシートを見て、
「あら? 割引できてなかったわ!」
と言う。なーんだ、やっぱりおれのほうが正しかったじゃーん。
で、けっきょく差額分を小銭でもらった。
パンパンになった小銭入れ。
得意げに「スマートに小銭を払ってやるぜ!」と思っていた数分前までの自分がおかしくて吹き出しそうになる。
身心すこし軽くなる。
種田山頭火 其中日記 (三)
味噌汁をこしらへて、そればかり吸ふ、何といふうまさ。
山頭火の日記はとても他人事のようには思えない。何年も前に自分が書いた日記を読み返しているような気持ちがすることがある。
家に帰ってブロッコリーのペンネをこしらえる。
美味しいと思ったものは何日も続けて食べてしまう習性がある。
よしもとばななの小説に出てくるチエちゃんみたいに。
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ワインを飲みながら、借りてきた『青い花』を読んだ。
最終巻だけ読みそびれていたのだ。
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なんかもう、ぼろぼろと泣いた。
ジロウが冷凍していた豚の細切れ肉を解凍して、ピーマンと一緒に炒めてバルサミコ酢を掛けた。
バルサミコ? 何年ぶりに買っただろうか。
『アタゴオルは猫の森』の続きを読みつつ、寝落ちする。
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