醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

2013-01-01から1年間の記事一覧

ピアス

母の友人だった青年は、いつも両耳にじゃらじゃらとピアスをしていた。それ以上空けるところが無いくらいたくさん。軟骨の部分にも。 端から見たらただのちゃらちゃらした青年にしか見えないだろう。細身で、いつも黒い服を着ていた。でもその装いは、彼の御…

マザー・コンプレックス

母親を亡くすというのは、ある意味では解放だ。でもそれは、女にだけあてはまる感覚なのかもしれない。 「天国の母親に恥じないように生きたい」と男性の呑み仲間が言った。なるほど男と母親とは、死に別れてもイチャイチャの関係なのね、可愛いわねなんて思…

結婚

大家さんに結婚の報告をする。 「あら、旦那様のお勤めは塾? 帰りが遅くて大変ねえ。栄養のあるご飯つくって差し上げてね」 「ご長男なの? それじゃあアナタもじきに家にはいるんでしょう? 先に子どもつくったほうがいいわよー。その方が受け入れてもらい…

香水

嘗て自分がつけていた香水の薫りと、駅の構内ですれ違う。Les Belles de Ricciの1番。青くさく甘ったるい匂い。十代にこそ似合う香りだ。少女はふわふわしたスカートを風になびかせ、ショッピングモールへ向かう人波に消えた。今は廃盤となったその香りを、…

「愛」

恋の寿命は三年だって云うけれど、三年ももった試しがない。長くて三ヶ月。それ以上続いてしまったら身がもたない。恋をすると、まずはまともに食事が摂れなくなる。常に吐き気がする程、胸が痛い。うわのそらになる。終わらない考えごとをぐるぐるとつづけ…

〔小説〕 五月某日(二〇一一)

五月某日 大学時代の友人久しぶりに逢う。お互い社会人だ。 「いちばんお金使うものってなに」という話になり、「酒」と即答するおれ。 五月某日 かつて自分がつけていたのと同じ香水の香とすれ違い、思わず振り向く。 ホームに電車が滑り込む。電車って、そ…

イワサキタクジ新作展「ヒトと紙片、ソレ以外のモノ」

イワサキタクジ氏(勝手にイワタクさん、と呼んでいる)の新作展に行く。ドローイングと幻燈会。鎌倉は長谷の光則寺。幼稚園の、今はおかあさんたちの寄り合い場所として使われている旧園舎へ。 入り口の様子を外からこっそり撮影。 遠くからでもこの三角形…

老いる

自分が子供だったころから子供が苦手だった。早く大人になりたかった。 二十代も終わりに近づいて、おれは年をとればとるほどガキになっていくような気がしている。かつての同級生がお父さんやお母さんになって落ち着いていくのに、おれはどんどん生意気な、…

ロバート・キャパ / ゲルダ・タロー 二人の写真家

すこしばかり体調が復活したので、横浜美術館へ行く。ロバート・キャパとゲルダ・タローの写真展*1。 三月だというのに真冬の様な寒々しさ。日曜なのに歩いている人も少ない。無風。美術館の前の水溜まりが鏡の様にビルを映していた。 Photo by 大町ジロウ*2…

絆?

震災のあと、みんなが絆、絆って言った。お金じゃなんにも当てになんない。せっかくマイホームを建ててみても、津波で流されちゃったらそれっきり。近所の原発が事故を起こしてしまったら、それっきり。 二〇一一年三月。鎌倉に越して来て一年と七ヶ月が経っ…

定食屋

学生時代、独りでよく行った定食屋があった。七十を超えたママは黒々とした髪を美しく結い上げ、すっと背筋を伸ばしてカウンターに立った。席は五席ほど。やってくるのは、たいてい独り暮らしの男子学生である。鯖の味噌煮定食が五〇〇円だった。品書きに肉…

田中泯『場踊り』-カラダトアタシ-

逗子駅からバスに乗る。葉山へ向かうバスは随分と細い道をうねうね走る。民家の合間に時折海が覗く、降りたのは神奈川近代美術館葉山館の前。 先に降りた人たちは、エントランスの横をすり抜けていく。よくわからないけど、その後をついていく。 美術館の裏…

〔小説〕 着信 “それじゃ、つきあおっか”

「せんせいはカレシいるの?」 教育実習に出向いた先で、中学二年の女の子に訊かれた。 「秘密」 「えー、っていうことは、いるんだ!」 「実習生はさ、そういうこと教えちゃいけないの」 「ふーん、めんどくさいね。……あのね、」 教室掃除用のほうきを握り…

〔小説〕 そういうお店

「男はみんなオッパブに行くもんなんです。オッパブ、わかります?」 隣のテーブルでまだ若いサラリーマンが、ビールジョッキを片手にそんな話をしていた。 「うちの彼氏はそういうお店、行ったことないと思うけど」 これもまだ年若い女がそう答える。 「せ…

〔小説〕 白濁(仮)1

神社の脇にたつ栗の木は毎年五月になると見事な白い花をつけ、わたしはその下を歩くたびにかつて口に含んだ何人かの精液の匂いを思い出す。体臭はひとそれぞれ違うのに、どうしてあれだけは濃さの違いさえあれ、同じような味がするのだろう。つんと、喉を灼…

昨日は午前中まで元気でどんどん配架をこなし、お昼に唐揚げ定食をぺろりと平らげたのに、午後になってデスクワークを始めたら急に寒気がしてきた。おかしいな、と思いながら上着を羽織る。次第に意識が朦朧としてきて、おまけに体中がぎしぎし軋むように痛…

エプロンの庭

「Le rustique エプロンの庭」を見に行く。いさっちのクロパン・クロポン*1のエプロンにmarciel*2が絵をつけているやつがとてもよかった。けれど、おれが欲しくなったのはなぜかぜんぶ子どもサイズのエプロンのデザインだった......(ポケットから猫が顔を出…

恵比寿さま→GMK交流会

紀伊国屋の前に、なぜか恵比寿さまがいらっしゃっていた。島根フェアの一環らしい。鯛を釣っておられた。 夜はグリーンモーニングカマクラの交流会で、パタゴニア日本本社の休憩室へ。ミュージシャンもそうでないひともたくさん。まX*1にひさしぶりに逢えた…

ミンカの夜。

北鎌倉に「ミンカ」というなまえのカフェがあって、夕方にはよくコーヒーを飲みに行っていた。先日、壁際の席に、一人掛けの机があることに気づいた。ここで執筆したら、どんなにかはかどるだろう!日中は観光のお客もたくさんやってくるので、前々から一度…

初LIVE「ミ・ヤモーレの夜」

ご来場ありがとうございました。Cafe GOATEE が満員! 40名以上の方にお越しいただきました。 ライブって生で歌を聴くだけじゃなくて、歌い手のエネルギーを浴びに行くものなのかもしれない。人前で歌ってみると、自分から溢れているエネルギーがわかる。観…

満月キャラバン@Cafe Kaeru

二階堂のCafe Kaeru で満月キャラバン。カレーライスをいただく。ふたりで一皿を分け合って食べてちょうどよかったという、少食のコータ&とまそんに会場どよめく。二階堂は、同じ鎌倉でもずいぶん遠い。行きは遅刻しそうだったのでバスで行った。途中、あま…

園子温監督「希望の国」

ジャック&ベティでたくちゃんと待ち合わせて映画「希望の国」を観る。昼間の黄金町はわびしい。北風に吹かれる薄汚れたピンク色のビルディング。灯りの消えたネオンサイン。陽が落ちる頃、ここは欲望と虚しさの交叉する街になるのだろう。「希望の国」は3.1…

新年鎌倉呑み歩き

明けて二〇一三年、朝。ジロウがお雑煮をつくってくれた。昨年のお礼も兼ねて、源氏山の葛原岡神社へ。途中、巳年で大賑わいの銭洗弁天をちょっと覗く。すごくトイレが綺麗だった。鎌倉は路地が奥深い。散歩するところにことかかない。歩いているだけで、な…