日々の生活こそが魔法 ~ 梨木香歩 「西の魔女が死んだ」
やらなくてはいけない仕事を後回しにして昼となく夜となくだらだら過ごしていると、ふと思い出す本がある。梨木香歩『西の魔女が死んだ』。
新刊本を書店で見かけた時は、「これはタイトルからしてファンタジー……しかもホラー?」と思って尻込みしていたが、文庫本の装丁を好きな漫画家が担当していることを知って、読む気になった。
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- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: 文庫
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ファンタジーじゃなく、ホラーでもなかった。
登校拒否になった中学生の女の子「まい」と、そのおばあちゃんのお話。おばあちゃんはイギリス人。彼女は憧れていた日本に仕事でやってきた折、若かりし日のおじいちゃんと出逢い、日本での永住を決めた。現在は田舎の山奥で、まさにカントリーな生活をしている。
さすがイギリス(というか何というか)、おばあちゃんの家系には魔女の血が流れている。だけどおばあちゃんはハリー・ポッターのようにエイッと魔法を使うわけじゃない。見えないものを見る力は持っているけれど、それで未来を予知したりするわけでもない。たった一つのことを除いて。
まいのように、ホームシックに似た胸の苦しみを感じることがある。自分の家にいてもそうなるのだから、おそらくホームシックとはちょっと違う。独りで、世の中を生きていかなければいけない苦しみ。
どんなに親しい人でも所詮は他人。一生一緒にいることはできない。いつか死に別れる。死別にまで至らず、生きているうちに離れていく人がほとんどだけれど。普段は忘れているけれど、ときどき思い出すと苦しくなる。独りで暗い闇の中に突き落とされたように。そんなときにまいが自分を落ち着けるために使うのはマグカップ。
この本に出逢ったのはちょうど辛い思いをしていた頃だった。私はまいと一体になり、おばあちゃんに強く生きていく方法を習った。魔女として生きること。それは生き辛い世の中を強く生き抜く為の隠喩。
魔女として一番大切なのは「何でも自分で決める」こと。最初の修行は日々の生活をきちんと行うことから。起きる時間、寝る時間、仕事をする時間、すべてを自分で決めて、その通りに行う。
一番単純な日々の生活が、一番難しい。この本に出会ってからもう数年が経ち、思い出すたびにきちんとした生活をしようと思うのだが、まだまだ、魔女修行の第一歩で右往左往している。
追記(二〇一三年十一月八日)
後に映画化されましたね。
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