醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕秋山佳胤先生の神聖幾何学綿棒アートワークを受講しに藤沢のじゆう工房へ行く

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  • 笑へば
  • 金歯が見える
  • 春風
  • 山頭火

なしたい事、なすべき事、なさずにはゐられない事。
早く旅立ちたい。――

種田山頭火 其中日記 (五)

如月十二日、晴れ。

なんにでも、渦中に飛び込まなくては気が済まない性分だったようだ。どかんと当事者になって、揉まれて傷ついて、よれよれにならないと感じられないものはある。

でも、渦中にいると、周りが見えなくなる。「ちょっと離れたところから見ている」という俯瞰の視点を身につけたい。

6時53分に起きる。風呂で『選べば未来は一瞬で変わる』を読む。入浴時間は2時間10分53秒だった。

まだ風邪が抜けていない。体が山椒を求めているので、スパイスハウス・ぺぺで激辛担々麺。GOOD GOODIESでブレンド。陽平の淹れてくれる珈琲のことを、勝手に「こーへーのヨーヒー」と呼んでいる(一度言い間違えたのが定着した)。

江ノ電に乗って藤沢へ。ホリスティックヘルススクール じゆう工房へ、秋山佳胤先生の神聖幾何学綿棒アートワークを受講しに行くのだ。

秋山佳胤先生は「不食の弁護士」と呼ばれている。綿棒アートワークを学ぶというよりは、生身の秋山先生に会ってみたかったのだ。食事をすることなく、水分さえ口から摂らずに生きているって、どういう感じだろう、と。

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会場では、想像よりもひとまわり小柄な秋山先生が受講生の分のコーヒーを淹れていた。わあ、すごい、ほんものだぁ、生きて動いてるー! と心の中で思いながら挨拶をする。

神聖幾何学綿棒アートワークの発案者は井上靖子先生。会場にも講師としていらっしゃっていた。必要な道具は全部100円ショップでそろう。机を汚さないためのクッキングシート。綿棒(紙軸の方が扱いやすい)、速乾性の木工ボンド。爪楊枝があると、ボンドをつぎ足したいときに便利。

同じ長さの綿棒を木工ボンドで繋げていくと、神秘的な立体ができあがる。初心者はまず、「シードオブライフ」と呼ばれるベクトル平行体を作る。

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これがシードオブライフ。あらゆるものを吸収する「陰」のカタチ。女性性の象徴。綺麗に組み合わせられると、まんなかが星のようになる。

簡単そうに見えて、初心者にはけっこう難しい。ちょっとずれてしまうと、すぐに全体がゆがんでしまう。油断すると重力に負けて、ぽろっと壊れる。

「壊れてしまっても、『もとに戻ったんだなぁ』と思えばいいんですよ」と秋山先生が言う。

次に作るのは「マカバの星」。

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マカバは拡散する「陽」のカタチ。男性性の象徴。

シードとマカバは全く別のカタチに見えるけれど、本当は同じもの。巨大な繋がりの部分をそれぞれ切り取ったカタチ。

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つなげていくと、巨大なフラワーオブライフになる。

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さらに、綿棒をあらかじめしならせたものを組み合わせていくと、手鞠フラワーオブライフになる。もはや伝統工芸のようだ。

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色をつけたいときは、アクリル絵の具がオススメだそうだ。金色の絵の具も売っている。組み立ててから塗ってもいいけれど、いろんな色を組み合わせたいときや、巨大なものをつくるときには、組み立てる前に一本一本塗っておく。

ただじっと座って瞑想をするのもいいけれど、無心に綿棒を組み立てていく瞑想も楽しい。出来上がったものから、なんだか波動を感じるのもうれしい。モビールとかにすると楽しいかも。

講座では作り方の詳しい説明はあんまりしない。同じテーブルになった人同士でなんとなく助け合いながら、新しい立体が生まれていく。その合間に、よく通る声で秋山先生がぽつりぽつりと、冗談っぽい人生訓的な話をする。記念撮影のかけ声は「巨万の富ぃ~」だった。

出来上がったシードオブライフとマカバの星を、うきうきと袋にいれて帰る。体積は大きいのに軽いから、空気を鞄の中に詰めたみたいだ。それとは対照的に、両肩にずっしりとかかるバックパックの重み。少しでも仕事を進めなきゃと思って、パソコン一式を入れてきていた。プレッシャーを背負った不協和音で軽い頭痛がしていた。

それでも、帰るときにはヘンなエネルギーが静かに体から湧いているのを感じていた。帰り道、目の前で自転車のお兄さんが、ふらっと車道に飛び出してきた。その瞬間に後続のバスが直撃してもおかしくないシチュエーションだったのに、私の視線が当たった場所でバスはカックンと綺麗に止まり、お兄さんの体もふわっと手前に引き寄せられるようにして止まった。

あわや大惨事の午後は何事もなく通り過ぎていき、自転車のお兄さんはバスのほうにじゃなくて、私に頭を下げて通り過ぎていった。

そういえば会場に来るとき、数年前に見た交通事故現場のことを思い出していた。大破したバイク。バイクと衝突したらしい車の、ぐしゃぐしゃに割れたフロントガラス。バイクの運転手だった人は、対向車線のバスに踏まれて下敷きになっていた。真っ赤な血の海。人間の血って、あんなに鮮やかな色をしているんだ。即死だったそうだ。

バスと、交通事故。ふいに思い出したその光景は、目の前で結末が書き換えられたんだ。

鎌倉に戻る。御成のスターバックスへよって、少し小説を書く。大谷ビル界隈を呑み歩いて帰る。23時4分に寝る。