〔日記〕 サイン
- ま夜中、
- 熱いものを
- すゝる
- 山頭火
一月六日 雨、何といふ薄気味の悪い暖ヌクさだらう、そして何といふ陰欝な空模様だらう。
種田山頭火 行乞記 三八九日記
次郎さんに手紙を書いた、――その心中を察して余りある事、感傷的になつては詰らない事、気持転換策として禅の本を読まれたい事、一度来訪ありたき事、等、等。
あんまり馴染みのない呑み屋に行く。独りで呑んでいると、話しかけられて面倒なことがある。
「ようよう、ねえちゃん、なんの仕事してんの?」
「あ、小説家です」
「……小説家!」
オッサンの対応が急に丁寧になる。
「きゃー、すごい! サインしてください!」
連れのおねえさんがいそいそと手帳を取り出す。名前も知らない人のサインなんてもらって嬉しいかねえ。明日にはきっと、サインを貰ったことも憶えてないのかもしれないなと思いながら、手帳の余白にそれっぽく書き込む。