醒メテ猶ヲ彷徨フ海|野原海明のWeb文芸誌

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

〔日記〕手を伸ばしても届かない恋

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  • まうへに陽がある
  • 道ながし
  • 山頭火

禁を破つて、昼二杯、夕二杯、とてもうまい酒だつた。

種田山頭火 行乞記 山口


水無月十八日、晴れ。

好きすぎるが故に手を出せなかった歴代好きな人たちと男友達が夢に出てくる。
そのひとりの下宿で、久しぶりに飲み会をするのだ。

歴代好きな人同士は初対面だ。
電車に揺られながら打ち解けて話をしている。
「この人、デートしてても一人でふらふらどっかに行っちゃうんですよ」
と昔の彼氏が小突いてくる。

みんなで車で買い出しに行って、夜更けにその一戸建ての小さなアパートにたどり着く。
現実では行ったことがないのに、そこは私にとっても懐かしい場所であるらしい。
今日は泊まりがけになりそうだ。
生理ナプキンは足りるだろうか?
この辺にはコンビニなかったしなぁ、と心配している。

場面は突然変わって、都内の昼間である。
同じメンバーで飲み会の準備をしている。
そこは廃墟になった古いビルで、1階の玄関を開けるためには、非常階段で屋上まで昇ってから侵入しなくてはならない。

非常階段の最後の踊り場と、屋上の扉との間は隙間が空いていて地上が見える。
しかも、とても不安定だ。
先に昇った元彼は、足が長いから軽々跨いで行ったけれど、私は飛び越えなくてはいけない。
手を伸ばせば、彼が腕を取ってくれるだろう。
それはわかっているけれど、もう甘えちゃいけないんだと思う。
やっぱり、また手が出せないのだ。

自力で飛び越えて、廃墟ビルの中の階段を下る。
1階の応接スペースに他の二人が先に着いていた。
「実は昨日、他のうちでも宴会をしてて、クレームきちゃったんだって」
男友達が大家さんからの伝言を伝える。
「それじゃあ、中止?」
「……いや、今から店へ飲みに行こう」

ビルを出ると雨上がりの晴天だ。
隅田川沿いの歩道は砂利道で、水たまりになっている。
そこに踏まないで歩くのが難しいくらい、ヒキガエルや小さな蛇やナメクジが散らばっている。
それさえも、雨上がりにきらきらと輝いているのだ。
さあ、こんな日はビールだ。

意気揚々と歩き出したところで、すがすがしく目が覚める。

もう一度眠ると、今度は自分は、今より少しだけ幼くなっている。
夢の中で私は恋をしている。
現実では会ったことのないその人は、上下とも白い服をラフに着て、オシャレな黒縁の眼鏡をしている。
大手デザイン会社の看板デザイナーらしい。
私は彼を含む数人と、車で移動しているらしい。
夜の高速道路、サービスエリアに車を停める。
駐車場の縁石に腰掛ける彼の気をひこうとして、私はデザイナーが主人公の絵本を一生懸命彼に自慢しているのだ。

過去と架空の恋に満ちた夢だった。
ああ、恋はいいね。
手を伸ばしても届かない恋がいちばんいい。


洗濯をする。
台風がベランダの砂埃をきれいに洗い流していった。

山頭火が「アッパッパ」のことを日記に書いていたので、どんなものだか検索してみる。

mia.hateblo.jp

普段私が着ているワンピースは、だいたいアッパッパじゃないか。

昼に素麺を茹でる。
インゲンとツナ缶を入れていただいた。

小説を書く。

mianohara.goat.me


もう一回洗濯をして、ジロウが風呂に入っている合間に座禅。
ノートの切り替え作業をするが、あまり進まない。
夕方、スーパーに買い物へ行く。

お惣菜の焼き鶏(皮、レバー)と、チキンステーキを買ったが、どちらもあまり美味しくなかった。
焼き鶏は焼き鳥屋で食べるのが一番美味しいし、チキンは横着せず、自分で焼くのが一番旨いんだろうなぁ。

ビール、赤ワイン、チーズ。
砂の器』を観る。

人の心模様よりも、風景のほうが印象に残る映画だった。
昭和の夏だ。
クーラーなんてない捜査本部では、昔ながらの扇風機が回っていて、みんな顔に汗をかいていた。