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醒メテ猶ヲ彷徨フ海

野原海明(のはら みあ)のWeb文芸誌

草津町には「温泉図書館」がある。

 一月八日 朝のうちはうらゝかな晴れだつたが、午後は曇つた。
米を買つた、一升拾六銭だ、米はほんたうに安い、安すぎる、粒々辛苦、そして損々不足などゝ考へざるをえないではないか。

種田山頭火 行乞記 三八九日記

草津の町にはしんしんと雪が降っていた。部屋の中にいても硫黄の臭いがしてくる。空気中に漂う温泉成分のせいで、テレビなどの電化製品は一年程で壊れてしまうのだそうだ。クレジットカードの金色の部分も、空気に触れるうちに黒くくすんで使えなくなる。

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お湯につけたままにすると、五寸釘は9日で針金になる。草津町立温泉図書館にて。
金属を溶かしてしまう恐るべき性質の湯は、目の病にはいいようで、町には眼科が無い。空気に触れているうちに殺菌されて治ってしまうらしい。温泉で目を洗うのはいいが、口に含んではいけない。歯が融けてしまうからだ。

そんな町の図書館が新しくなった。バスターミナルの3階にあるのは、その名も「温泉図書館」だ。

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訪れた人はまるで風呂にでも入りに行くように暖簾をくぐる。

これまではすぐ隣にある、役場の建物の中にあったそうだが、そちらはあまりにも狭かった。そのためもともとバスターミナルにあった「温泉資料館」の展示物をコンパクトにまとめ、こちらに図書館を移設した。広くなった館内では、ぶらりと訪れた観光客と、地元の中学生たちが並んで本をめくっている。

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閲覧席には、ひとつの席にコンセントの口がなんと2つも。飲み物持ち込み可。

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温泉街を眺めながら、のんびりできる席もある。

町民だけでなく、訪れたひとはみな本を借りられる。一般書はもちろん、ハンセン病関連の資料(草津には療養所がある)、古い町のパンフレットや、地域に咲く花を撮り溜めたオリジナルの資料もある。もちろん、温泉関係の本もたくさん。

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木製の書架は、古い図書館からそのまま持ってきたそうだ。

地元の人が行く秘湯を案内してもらった。これも図書館のレファレンス(調査相談)ですから、と笑う。語尾に「~でサ、~がサ、」と「サ」をつけて軽快に話す口調は、懐かしい故郷の話し方だ。

しっぽりと、夜が更けていく。