2018-01-01から1年間の記事一覧
おれは酒場に通わなくなったらどこで友達に会ったらいいのかよくわからない。 それでも、ついに、いよいよ、酒を断つときが来たような気がする。
「あ!」 信号を待つ人たちが指さし歓声を上げる。鳥居に並んだ白い鳩の群れが一斉に飛び立ったのだ。拍手している人までいる。 ざわざわと粒のように連なる白い群れ。そのすがすがしさとは裏腹に、私は喉の奥に引っかかる苦みを思い起こしていた。幾億もの…
新しく始めるプロジェクトのために、新しいメールアドレスを取得する。零から無限に広がっていくように思いを込めて。
プリミ恥部こと白井剛史の『愛を味方にする生き方』を風呂で、防水の新Kindleで読む。宇宙とKindleと湯船とが繋がってトランスっぽい感じ。
「昼間の町を一緒に歩いて欲しいんだ。なんでもなく、普通に」 「それだけ?」 「それだけ」 高橋は自分のシャツの袖をつまんで言った。 「あ、でも俺、なんか汚れてる?」
高橋を畳に転がしたまま、私はソファーで毛布を被って寝た。 翌朝、青白い顔で目覚めた高橋に水の入ったグラスを手渡す。高橋は喉を鳴らしてひと息に飲み干した。
防水機能のついた新しいKindle Paperwhiteがついに届く。いそいそと開ける。しばし無心に設定をする。
鴻上尚史の人生相談を読む。本当の友達が欲しいという17歳の女子高生に対するアドバイスだ。読んでいてちょっと違和感があった。
ポケットの中で携帯が震えていた。タケシさんからだ。どうにか高橋の靴を脱がせ、畳の上に横たわらせて、かけ直す。電話に出たタケシさんは、 「大丈夫? お腹」 と言った。マスターが適当に嘘をついておいてくれたんだろう。
寿がきやの八丁味噌煮込うどんに白菜と椎茸、長ネギと卵を投入していただく。
ヒグラシ文庫へ行く。今日は写真家の有高唯之氏と、フォトエディターの斎藤紘一氏によるイケメンメンズデーなのだ。
タケシさんはなかなか帰って来なかった。 「ちょっと、見てきます」 と私が言うと、 「ああ、いっといで。タケシさんにはうまく言っとくから」 とマスターはぶっきらぼうに言った。
雨で人は少ないけれど、その分濃い人たちばかりが集まっていてすごい雰囲気だった。誰が演者で誰がそうでないのかわからないくらいに。
『「違うこと」をしないこと』のプリミ恥部と吉本ばななの対談を読んでいる。とても面白い。何かが始まる、何かが開ける感じがする。
雨があんまり長く降り続くので、海面が上昇してうちのベランダを越えてくる。波の上に透明な海百合がぽっこり顔を出していた。ガラス玉みたいで、あんまりきれいなのでiPhoneで写真を撮る。やがて水面は天井まで届く。
「行こう」 グラスを空にすると、タケシさんは私の背中に手を添えた。 「ごちそうさま」 店主に声を掛けて店を出る。縄のれんも看板も、もう仕舞われていた。 軋む階段を降りる。かつら小路の入り口で、地べたにへたり込んでいる人影があった。男だ。顎に届…
鮭のちゃんちゃん焼きを「ちゃんちゃん」、ぎんなんを「ぎんぎん」と呼び、どちらも隠語のように話すのが流行る。
15時頃家を出る。竹扇へ。まつもと純米のぬる燗、天青の常温。だし巻き卵、きのこのてんぷら、かしわそば。まだ15時過ぎだというのに空は夕方っぽくて、酒を呑むのには罪悪感がなくていい。
店を出て、恐る恐る周りを見渡す。 当然、坂井の姿は無い。 ほっとするのと同時に、胸が詰まる。胸が詰まるのと同時に、なんとも言えない解放感がある。 よくもまあ、今までずるずると続けてこられたのだろう。吸ったことはないけれど、煙草みたいなものなん…
「持っている財産の量が今たまたま多い」金待ちじゃなくて、「必要であればすぐにお金を集められる」金持ちになりたいなぁと思う。
ぐおーん、と、体中の細胞に音楽が染み込んでいく感じ。慈雨みたいな。ステージ端から端まで、とても広くて、見逃さないようにじいぃっと見た。体が自然にテンポを刻み始める。尻尾を揺らすように波に乗る。 ロケット・マツさんがひとさし指を立てると、ドカ…
パスカルズの前座で歌うことになって、横浜のサムズアップに初めてやってきた(おこがましくも、そんな夢を見た)。ズンさんのギターで歌うことになっている。遠方からやってきた前職のお客様も、「たまたま横浜で他のイベントがあるから」と申し込んでくれ…
「じゃあ俺、行くわ」 坂井は言った。いつもより大きく見開かれた目、無理やりあざ笑うようにに歪められた口。 「俺、あんたにずっと隠してたこと、あるんだわ」 そう言って短く引き笑いをした。
三十代にして、もう一度中学に入る決意をした。今日は卒業式である。教壇に立つのは藤本さきこで、Tが書いた花(アネモネだろうか?)の絵を黒板にチョークで写し取っている。 見ればクラスメイトには、中学の同級生と高校の同級生が交ざっている。机をきれ…
高崎の実家に、主人と、主人の子どもたちと一緒に住んでいる。三人兄弟の末の女の子はまだ小さくて、小学生だ。長男は成人していて、私が呑みに行くのにいつも付き合ってくれる。十歳くらい年下の、血の繋がっていない青年を連れて歩くのは、なかなかいいも…
きっと、お互いに表面しか見えていなかったんだ。外見だとか、体だとか。それでもずっと恋していた。 私は、別れる今になって、ようやく自分の内側を坂井の前にさらけ出しているのかもしれない。
長く日々を共にした二人が、個々に別れて暮らすことを決めるまでの記録にも読める。さらりと過ぎていく日記の中に、きっとこれが決定的な日だったのだろう、という言葉が挟まれている。
高山なおみの『帰ってきた日々ごはん』3巻を読む。学生時代、高山さんとスイセイさんの夫婦の暮らしに憧れていた。幾年月が流れ、何が変わり、何が変わらないままなのかをのぞいてみたくなって。
「俺が仕事をしている間に、あんたはその男とよろしくやってたってわけだ」 久しぶり、とかいう挨拶もなく。昼下がりのカフェにはまったく不似合いな話題だ。隣の席に座っていたサラリーマン風の男が、ぎょっとして坂井の顔を見た。気まずそうにカップを口に…
よしながふみの『大奥』を読み始める。男女が逆転してしまった大奥の、その深い闇に惹かれる。女性が働くその架空の江戸は、働き蜂や蟻の社会のように見えた。